その169

夜中、目覚める。小雨が降っている。眠りかかったが小便に行く夢を見て目が覚めたので、小便にいく。

目覚める。小雨がぽつぽつと降っている。誰かが出発する足音がする。食料袋はなかまでびっしょり。1つ1つ取り出してタオルでふく。テントのなかで栄養いっぱいのお菓子を食べる。テント内で荷物をまとめ、びしょびしょのテントをたたむ。テントの縫い目に貼ってある防水テープはだいぶとれている。穴をふさいだダクトテープも取れている。

出発。寒く、体が硬い。準備運動のつもりでゆっくりと歩く。雨は止んでいる。シダの葉が赤くなっている。紅葉しているのか枯れているのか分からない。穴を掘って出す。

急な登り。体が温まってカッパとウィンドジャケットを脱ぐ。禿岩地帯になって冷たい風を浴び体が冷える。辺りは真っ白。うぉ~と音が聞こえる。動物か、チェーンソーの音か。岩場の下り。岩と木の根がぬれていて滑る。登りより時間がかかる。朝が一番温かく、そのあと徐々に気温が下がっているようである。手が冷えるが手袋をするほどではない。たまにぱらぱらと雨が降る。

トレイルは大きく造り変えられていて、足もとがふわふわの道。岩がないから歩きやすい。

小屋に着き、昼めし。薄平パン、チーズ、落花生バター。小屋のなかは薄暗い。床に腰かけると足が届かないからぶらぶらさせながら食べる。食料袋から中身を全部とり出して乾かす。野獣さんがやってきてとなりで食べる。彼はせっかちな動き。食べかすをばしばしと散らかし、荷物をちゃっちゃとまとめて出ていく。わたしたちも体が冷えきったので食べ終わって早々に出発。
山頂の禿岩地帯に出ると、霧のあいだから黄色くなりつつある森が見えてくる。遠くには青空がのぞいている。

とんがった石の、ガレキの山を下る。道が分からず、ガレキを行ったり来たり。休憩していると木々の向こう側に太陽の光がみえる。ティーシャツ1枚になる。道がなだらかになる。広葉樹の明るい、にぎやかな森。午前中にのらさんは「この辺はぜんぶ針葉樹の森なのか」とぼやいていたので、気分良く歩く。赤い葉っぱがトレイル上に散らばっている。「雨で落とされたのか」

川に出る。かろうじて飛び石でいける。石は全部ぬれてはいる。かろうじて顔を出しているもの、明らかに誰かが置いたもの。足を乗せるとぐらぐらと動く。2人とも靴のなかをぬらさずに渡り終える。

休んで川を眺めていると霧雨、すぐに止む。トレイルから外れ、沢の水を汲む。荷物がずっしりと重い。

ゆるやかな登り、ちょっと急な登り。荷物が重いと腰が痛くなる。トレイルから見下ろすところに川が流れていて、その川べりにテントを張れそうな平地が見えたのでそこまで下りる。地面はぬれたままでしっとりしている。テントを張り、テントのなかに風を通して乾かす。

鶏だしらーめん、白米のミンチ牛肉混ぜ、青汁。アルコールストーブを使っていると、目の奥がじわーっと痛み。涙と鼻水でぐずぐずになる。ご飯が熱くて口の中をやけどする。体は冷えきってしまう。

テントに荷を入れ、着替え。持っているものを全部着る。キネシオテープで足を固める。のらさんがこれからの行程を紙に書き出す。歩き終え、自宅に帰るまでのだいたいの日程が決まる。哀しいというよりも、ついにこの時が来てしまったというような恐ろしさを感じる。どういうわけか、わたしたちは食料をたっぷり持っていることが判明する。けっこうかつかつだと思っていたので、これまでは大事に大事に少しずつ食べ、お腹をぐうぐう鳴らしながら歩いていたが、明日からは余裕がありそうである。

川の音がざあざあちゃぷちゃぷとうるさい。昨日はぎゅんぎゅんにテントを張りあったにぎやかなキャンプ、今日はわたしたちだけの静かなキャンプ。