その170

なめくじと蛇とヒルに襲われる夢を見て、眠りながら足をばたばたしてのらさんをけりとばす。その後眠れなくなって志ん生。たいへんな寒さ、のらさんに体をくっつけたり、足をからめたりする。2人の間にすき間があると寒い。しかしくっつくとマットのすき間に落ちてしまう。そのたびにマットの位置を直す。

明け方、気合いを入れて寝袋から出て着替える。テントの中で栄養いっぱいのお菓子を食べる。結露でびしょびしょのテントをたたむ。冷たい水をごくごくと飲んで出発。

雲のすき間から青空がのぞく。ゆるやかな登り。途中でウィンドジャケを脱ぐが寒い。草木をかき分けて森に入り穴を掘って出す。しかしなぜかすぐ近くにトレイルがあって、通り過ぎるハイカーの足が草木のすき間から見える。

急な登り坂。しかし風が冷たくて体は温まらない。山頂に着くが展望なし。そのまま下って山と山の谷間にあるキャンプ場で休憩。また登り、次の頂上を知らぬ間に通り過ぎて下り坂。手袋とウィンドジャケットを脱いで歩きだすが寒い。空は青空、風がごうごうと吹き荒れていて体は冷たいまま。

雷鳥に出くわす。人を恐れない、もしくは気にしていない。わたしたちの周りをとっとっとと歩きまわる。

昼めし場を探しながら歩く。木々が茂る間の細く狭いトレイルがうねうねと続く。また山と山の谷間に小さなテント場。シートとテントをひろげて風に当てる。薄平パンの落花生バター、チーズ巻きを食べる。もっと食べたかったが、あまりに体が冷えてきたので片づけて歩きだす。

ウールシャツのフードとウィンドジャケットのフードをかぶる。手袋をする。首と手を風にさらさないだけ温かく感じる。急な登り、わたしは人心地着くがのらさんは「全然体があたたまりません」と言う。山頂付近から木々が低くなってもろに風を受ける。

広々とした山頂に着き荷物を降ろし、展望があるところまで歩く。このトレイルの北の端にある山がぽっこりと、よく見える。その周りには低くなだらかにひろがる森。

そこにいたデイハイクのおじさんと話す。おじさんは2か月前(か2年前)に日本に行った、日本には息子がいると言って、息子さんが日本で出版した英語学習本の写真を見せてくれる。話している間もびゅうびゅう吹き荒れる風をもろに受け続ける。

万華鏡さんと大鳥さんがやってくる。寒いので急いで下りはじめるが、なかなか森林地帯に入らず風を受け続ける。小屋に着くとダウンアンダーさんがいて、まだ早い時間だがここに泊まると言う。「寒すぎる。次の小屋まで行ってもテントをはれるスペースはないし人でいっぱいだぞ。今夜は雨だぞ」と言う。これがもう最後、というコーヒーを飲みはじめたので、我々が持っている即席コーヒーをあげる。彼は紅茶をくれる。歩きはじめると左利きさんがいて、最後の山で雨が降りませんようにと祈るポーズをしている。

下り坂をさくさくと降りる。砂利道で休憩。急ぐ必要はないのだが体が一向に温まらないので(朝起きてから一日中寒いままである)ざくざくと集中して歩く。赤い落葉、裏側はピンク色。赤とピンクのトレイル。わたしはなるべくうつむき加減にならず、前を見ながら、下を見たい時はうつむくのではなく、視線だけを落として歩く練習をする。視線だけが行ったり来たりして落ち着かない。残り5日だというのに、まだ歩く練習をしている。

しばらく歩いてからのらさんが「今日はじめて体が温まった」と言う。わたしも温まって気持ちが落ち着く。小屋を通り過ぎ、川を石づたいに越え、その川の水を汲む。水の動きが鈍く、黒ずんで見える。浄水器は詰まっていて水の出が悪い。「もうダメになりかけているのだろうか」とのらさん。

わたしが水を汲んでいる間に、のらさんが川から少し先にテント場を見つけてくれたのでそこにテントを張る。トレイルのすぐ脇。きつきつのスペース。テントを張ってすぐにダウンジャケットを着込む。

ロープを吊るし、めしの準備をしていると、向かいの方向からふらふら君がやってくる。一か月ほどトレイルを離れていたという。「もうゴールだね、おめでとう」と言われる。

めしはじゃがいも(野菜とマヨネーズ入り。野菜とじゃがいもは合わない。マヨは非常用としてずっと持っていたのを初めて使う)、メキシコ味ご飯(濃い味のスパイシー系はしばらく遠ざかっていたが、久し振りに食べるとうまい)。食べ足りず、大豆ミートをぼりぼりかじり、薄平パンのつな巻きを食べ、麩入りのみそ汁を食べる。

のらさんは「一日中風にあたり続けていたので目が疲れた」と言う。わたしは最近顔を洗わず、目には汚れがたまっているように思われるので、抗菌目薬を使う。