その171

夜中、目覚めては眠り、目覚めては眠る。木々がこすり合ってきゅるきゅると鳴る。昨日よりは足もとが冷えない。

明け方、起きる。着替え、荷をまとめ、栄養いっぱいのお菓子を食べる。テントをたたむ。

歩く。青空が見えている。日が昇りはじめている。寒い。ゆるやかな登りだが体はあたたまらない。風は昨日と同じくごうごうと吹き荒れている。池のほとりの森のなか、草をかきわけたところに穴を掘って出す。空は明るいままだが雲がやってきてぱらぱらと雨が降り、すぐに止み、またぱらぱらと降る。

のらさんと話しながら歩く。寄生虫、がん治療、引越しの話。のらさんが寺尾聰を歌う。

森は日に日に赤くなっている。「早く歩き終わった人はこの寒さからは逃れられたけど、紅葉は見れないのだな」とわたし。道は平坦、森はきれいで「いい森だなあ」と2人で何度も言う。のんびりと森を眺めながら歩きたいところだが、体がまったくあたたまらないのでせかせかと歩く。沢の水を汲む。

小屋に着く。パンケーキさんと俳句さんが焚き火をしている。小屋の裏でシートとテントを乾かし、焚き火のそばで煙にいぶされながら昼めしを食べる。薄平パンの落花生バターとチーズ巻き。さらに薄平パンのチーズとマヨネーズ巻きを食べる。チーズは固い。マヨネーズは他の味を圧倒する濃さ。焚き火の真ん前に立っているうちは暖まるが少し離れると体はすぐに冷える。キャプテンプラネット君来る。わたしたちは出発。

またすたすた歩く。やっと体が徐々にあたたまってきて、やがて暑くなり、カッパを脱ぎ、さらにしばらく歩いてからウィンドジャケットを脱ぎ、それでもぽかぽかしていて、やがてだるくなり、眠くなる。荷が肩に食い込むようになる。午前中から減りどおしだった腹がさらに減り、もう少しで痛くなりそうである。

「針葉樹の森も好きになってきた」とのらさん。道は平坦だが、久し振りにずっとすたすたと歩き続けてわたしたちはだいぶ疲れている。のらさんが前を歩く。ペースが速い。わたしは追いつくのがやっと。

大きな湖のほとりにあるキャンプ場に着く。トレイル整備の人々がいる。テントを張れる場所がいっぱいあって、じっくり吟味して場所を決める。湖からすぐ近くて開放的、風がびゅうびゅう吹いたらものすごく寒くなりそうなところにテントを張る。上下ダウンに着替え、湖の水を汲む。日は雲に隠れている。風で湖面がさざ波のように揺れる。のらさんが貝がらを見つける。浄水器を洗う。湖は広く美しい。

キャプテンプラネット君が焚き火をしている。続々とハイカーが集まってくる。万華鏡さん、大鳥さん、バルー君、左利きさん、ダウンアンダーさん。前の宿でハンバーガーをつくっていたハイカーが、ここでもフライパンを使って焚き火の火で料理をつくっている。大鳥さんはスーパーマーケットで売っているぺらぺらのカッパを着ている。ビーバーを見たと言って、写真をみせてくれる。左利きさんの鍋はビール缶でつくったもの。

夕めし。らーめん(鶏味。野菜とわかめ、大豆ミート入り)、残り汁にご飯(スパム入り)。まだ足りなくてチーズ、ブルーベリー味ビスケット、紅茶、行動食をぼりぼり。まだまだ食べられるがここで止めておく。「寒いとたくさんカロリーを消費するんだなあ」とのらさんがしみじみ言う。

テントに戻る。ぬれティッシュで顔をふく。目のまわりを丹念にふく。のらさんは爪を切る。夕方まで吹いていた風は止んでいる。のらさんは暗がりで小便をして草履をぬらす。