その168

明け方、目覚める。少し寒い。のらさんにひっつく。ひっつくとマットのすき間に落ちる。空が明るくなりつつある。起きる。のらさんが便所ついでに食料袋を降ろして来る。テント内で栄養いっぱいのお菓子を食べる。ぽろぽろとこぼす。テントとシートを広げて干す。穴を掘って出す。川で顔を洗う。シューレザーさんより先に出発。

涼しいなか、川沿いの勾配をゆっくりと歩く。すぐに体が温まり、ウィンドジャケットを脱ぐ。ざあざあと音を立てて流れる川に出る。ここから川を歩いて渡る必要がある。靴下を脱ぎ、中敷きをはずし、靴を履いていこうとするが、向こう岸までワイヤーが張ってあってそれをつたっていけるから草履で大丈夫だろうと判断する。のらさんは靴で行く。

のらさんが先頭。ワイヤーを使い、無難に渡り終える。次にわたしが川に入る。ひやりと冷たいが気持ちいいと言える程度の冷たさ。のらさんから大きな石はすべると言われるが、大きな石の方がその分浅瀬になるので、つい足をのせたらつるりと滑ってバランスを崩す。ワイヤーが大きくたわみ、ザックにくくりつけていた靴が水に浸る。大きな石をさけながら進む。水は膝上か、股下まで来るかという深さ。また大きな石に足を掛けたところでつるりと滑って転ぶ。ワイヤーは握っていたので完全には転倒していないが、下半身とザックを全部ぬらす。

対岸にてぬれた物を乾かす。靴も靴下も中敷きも全部濡れたから、脱いだ意味がない。対岸からハイカーが3人渡ってくる。彼らはワイヤーは使わず、ストックを使って慎重に渡る。

上り坂。陽のあたる大きな禿岩のうえで休む。靴、靴下、中敷きを乾かしつつ昼めし。薄平パン、チーズ、落花生バター。チーズはチェダーだが色が白い。味の違いは分からず。チーズはたっぷり乗せるが落花生バターを控えめにしたのでさみしい。

ごろごろとした岩場の道、ぬかるみの道、針葉樹の赤い森、広葉樹の明るい森をゆく。道が変わるたびに、かつて歩いた道を思い出して「前にもこんな道があったなあ」と言いながら歩く。感傷的な気分。

道がつくり変えられていてまだ新しいところがある。道はまだ硬くしまっていなくてふわふわとやわらかい。「我々が踏むことで道がつくられていくんだ」とわたし。広葉樹林帯ではたくさんの木が間引きされているところがあって、細かい枝、中くらいの太い幹で地面が覆われている。森が明るく見える。「トレイルの仕事はたくさんあるなあ」とわたし。のらさんはペースが落ち、表情もさえない。調子の良くない状態が続いている。命の恩人をがんがん食べている。

のらさんが岩場で用を足し「後ろにひっくり返ればこのままの状態で落ちていくんだなぁと思った」と言う。わたしは歩いている時に足首ががくっと曲がってひどくひねる。ちょっとの間じっとして痛みがひくのを待つ。のらさんは「膝と足首が痛い。足の指先がぴりぴりとしびれる」と言う。

登り坂が始まり、段々と勾配が急になり、岩も多くなる。空が俄かに曇る。じっと耐えながら登り、一段落ついたところで休む。ちょっと平坦な道、そのあとにさらに登り、山頂に着く。池がぽつぽつとある、高いところから森を見下ろすのは久し振り。簡単な造りの鉄塔が建っている。風が吹き、汗でぬれたティーシャツが冷たい。

山の中腹、池がよく見える狭いところにテントを張る。のらさんが池に水を汲みに行き、わたしはロープをかけ、テント内で荷物をひろげる。

夕めし、らーめん(クリーミーチキン味。わかめ、野菜、大豆ミート入り)。具とめんを入れる前にがんがんと沸騰したのと、野菜が水を吸ったせいで汁が少なくなり塩辛い。残り汁でミンチ牛肉入り飯(ほとんど白米の味)。

ハイカーががんがん到着する。大鳥さんと万華鏡さんが来て、朝、池のほとりでムースを見たと言う。せまいのでみんなくっつくようにテントを張る。万華鏡さんのテントの目の前に食料袋を吊るす。テントに入る。わたしはすぐに日記を書きはじめ、のらさんはすぐに眠る。近くにある小屋から、わたしたちのテントのまわりから、にぎやかな話し声が聞こえるが、日が沈む頃にぴたりと静かになる。