その173

夜中、目が覚めて雨が降っている音を聴く。明け方、目が覚めて雨が降っている。起きる。気温は低くはない。着替え、テントのなかで栄養いっぱいのお菓子を食べる。のらさんは穴を掘りに行きたいが、行かずに食べる。食べた後、のらさんは穴を掘って出す。テントをたたむ。雨は止みかかっている。

歩く。荷物の詰め方が下手くそで背中に何か突起物を感じる。ザックの中身をなおす。森に入って穴を掘って出す。快便。ウィンドジャケットと厚手のウールシャツを脱ぐ。のらさんのお腹がぐうぐうと鳴る。「朝めしを集中して食べなかったからだ」と言う。「トイレに行きたかったから気が散ってた。だから胃腸が食べた気がしてない」

大きな湖のほとりを歩く。森のなかの道。何か動物が哀しげにほぅーっと鳴く。湖を眺めるが姿は見えない。通りがかったハイカーにきくと、アビだという。いつもはおひょひょひょひょ、と鳴くのだが。湖のほとりでは大鳥さんが休んでいる。水は透明で水底の岩の形がくっきりとみえる。

登り坂になり、暑くなってティーシャツ1枚になる。のらさんもカッパとスカートを脱ぐ。禿岩の道。こんな道を歩くのも最後だな、と思う。岩は乾ききっていないものの、グリップはよく効く。辺りは霧で白くなる。

それほど登らないうちに山頂。岩に腰かけて昼めし。薄平パンのツナとチーズ巻き。その後落花生バター巻き。体が一気に冷える。

歩き出すが、また背中に何か当たっていて痛い。しかし体をあたためたいのでそのまま歩く。しばらく歩いてからザックの中身を詰め直す。背中に当たっていたのはペグ。背中に物が当たっていると肩に負担がきて歩きずらくなる)。

小屋に着いて休む。パンケーキさん、ダウンアンダーさんと左利きさん、大鳥さんがいて、さらにマックさん、万華鏡さんが来る。俳句さんがいて焚き木を集めてまわっている(大きな幹の木ばかり)。のらさんは「ここでゆっくりするより、森のなかをゆっくり歩きたい」と言う。皆がくつろいでしゃべっている中、わたしたちは出発する。

ゆっくりと森を眺めながら歩きたいところだが、わたしは何となくダルくてのらさんと話しながら歩く。ギョウザの具。久し振りに呑み処アパラチアの話。

途中座って休憩していると、小屋にいたほぼ全員がわたしたちを抜いていく。皆歩くのが速い。

歩いていると、今度は皆立ち止まっている。左利きさんが「緊急事態だ」と言う。万華鏡さんに何かあったらしい。ふくらはぎを蜂に刺されたこのこと。万華鏡さんと大鳥さんは先を急ぎ、他の女性ハイカーが万華鏡さんの荷物をかついで追いかける。

砂利道に出る。砂利道をゆっくり歩く。わたしたちの前をダウンアンダーさんと左利きさんが並んで歩く。彼らはもうお爺さんだが、その後ろ姿は子供のようにみえる。しかしお爺さんのようにもみえる。砂利道の先に食料品店とレストラン。万華鏡さんと大鳥さんはトラックの荷台に乗せてもらって町に向かう。食料品店で買い出し。値は高い。明日と明後日の朝食、昼食分を買う。

道のはす向かいにある、川そいのテント場。用紙に名前を書き、お金と一緒にポストにいれる。突然、今まで曇っていた空が晴れて陽が差す。テントを乾かし、甘々パンを久し振りに食べる。

テントを張り、食料品店に戻る。レストランで食事。左利きさん、ダウンアンダーさん、パンケーキさん、キャンディバーさん親子と同席。皆ビールを飲んでおもいおもいしゃべる。わたしたちもビールを飲みながら、その様子を眺める。ビールをおかわりする。わたしは卵とチェダーチーズ入りバーガー、のらさんはマッシュルームと焼きオニオン入りバーガーを食べる。皆ちょっと酔った表情。ハンバーガーのかぶりつき方がひとそれぞれ。眺めていて愉快。

ダウンアンダーさんが、シナモン味のウィスキーを振る舞う。甘くてべたべたしているお酒。疲れた体にねっとりとしみ込む。ここまで歩いてきたことをねぎらう。皆でテーブルを囲んでお酒を飲んで、とても幸せな気分。

暗がりのなか、テント場に戻る。甘いクッキーを食べる。川の水を汲んで浄水する。歩き終わる頃くらいから右目が痛く、目薬をさす。