その162

朝までぐっすりと眠る。目覚め、寒い。のらさんにくっつく。マットが離れるのでくっつきにくい。なかなか寝袋から出られない。

テント内は結露でびっしょり。ぬらしたくないもの、寝袋、ダウンジャケット、マットなどをしまう。テント内で栄養いっぱいのお菓子を食べる(かちかち)。

テントをたたむ。モグラ君達にあいさつして出発。急坂をゆっくりゆっくりと登り、体をあたためる。

てっぺんに着く。雲海がひろがる。下る。上着を脱ぐ。また登り、再びてっぺん。雲海が減る。湖がひろがる。反対側の山にはスキー場、山すそには飛行場。また下り、キャンプ場あり。荷をおろす。キャンプ場はひろく、便所が遠い。しばらく歩く。便所で出す。大量、相変わらず。

また登り坂。山頂に着く。風つよく、ウィンドジャケットを着る。塔か、建物跡の土台(石垣)が残っている。高い山に登るのはこれが最後。じっくりと風景を眺める。下りながら、さらに風景をじっくり眺める。

「ちょっと外れたところに展望あり」の看板がある。いつもなら確実に通り過ぎるところだが、いってみる。岩の上に腰をおろす。先ほど山頂から眺めていた湖が近づいて見える。湖の真ん中に島があり、入り江がある。

「あ、そうだ」とのらさん。「誕生日おめでとう」と言われる。今の今まで忘れていた。「忘れてる位が丁度いいんだ」

下り坂の途中、別トレイルの分岐点で休む。日なたでテントとシートを乾かす。薄平パンにチーズ、落花生バター。薄平パンは小さいサイズのものの残り。チーズは固まりのものをナイフで切って薄平パンにのせる。干しキウイを食べる。

下りきり、だらだらと長い、地味ななだらかな登り坂。急勾配ではないが、今までの山越えよりもキツい。気持ちが乗らないまま歩くと歩くのがキツくなる。途中、穴を掘って出す。苔の生える地面は穴が掘りやすい。のらさんはだるそうで「とにかく眠い」と言う(昼前から眠たそうである)。

軽装で歩いている何人かのハイカー(シェルパさん、ビーストさん)とすれ違う。岩場に腰かけて、また風景を眺めて過ごす。昨日と今日で越えた山がでんと構えている。「この山を越えてきたんだなぁ」としみじみ。今日は朝からゆっくりと歩き、たっぷりと風景を眺め、ゆったりとした行程。

わたしは腹が減って腹が減って仕方なくなる。昨日の夜はじゃがいもしか食べず、今日の昼めしの薄平パンも少なめ。さらに最近(食べすぎのせいか)食べたものは即うんこになって出てしまうし、午後になって突然お腹が空っぽになってしまったかのよう。

「新鮮な気分だ。腹を減らしながら歩くというのは」「昨日寒かったのが影響しているのかもしれない。寒いとそれだけカロリーを使うから」

のらさんは眠く、わたしは何か食べたい。

車道に出ると、スラックの人達やわたしたちを抜いていったモグラ君、超自由君たちがみんないてにぎやか。わたしたちは皆を抜かして先に進む。のらさんのペースがあがらない。足に力が入らないと言う。途中、膝がとても痛くなって膝バンドを外したとの事。終わりに近づいて、用具も体も一気にガタがきている。

おおきな湖のほとりにあるテント場。テントを張る。砂利のビーチで食事。ツナ、オリーブ油、クリスピーチーズ入りじゃがいも、人参とグリーンピース入り鶏味ご飯(わかめも入れる)。わかめのせいで日本のカップラーメンのような味わい。今日は気温があたたかいせいか、湯が沸くのがはやい。アルコールストーブの性能がこれだけ変わるものかと驚く。

倒木に腰かけて湖を眺めながらの食事。はじめは青空、山の上がオレンジ色になり、山が黒くなり、空は濃い青になっていき、湖面が墨色に変わる様を眺めながら食べる。先ほどのスラック組、新たに到着したハイカーでビーチはにぎやかになる。

皆が食事をはじめるところでわたしたちはテントに引き上げる。暗がりのなかで食料袋を木に吊るす。ビーチは焚き火がはじまってさらににぎやか。気温が下がり、ダウンジャケットを着込む。のらさんが今にもはがれそうな右足の人差し指の爪をいじりながら「しじみみたいだ」と言う。爪は黒く丸まっていて本当にしじみのカラのようである。のらさんは膝にハッカ油をつけてよくもみ込む。わたしの足を少しもんでくれる。わたしが日記を書いているあいだに、のらさんは眠ってしまう。