その160

夜中目覚めるものの、よく眠る。目覚ましで目覚め、起きる。気温は低くなく、結露も少ない。薄暗いなか、テントの中で栄養いっぱいのお菓子を食べる。チョコレート落花生バター味。「きなこ棒のようだ」

テントをたたみ、歩く。登り坂。水場がいくつかあるが水は汲まない(たっぷりある)。顔は洗わない(「最近、もういいやと思って」とのらさん)。

のらさんのペースがあがらない。「体が重い。足の疲れがとれない」雨が一瞬ぱらぱら、湿った風が吹く。りんごを食べる。芯もへたも全部食べる。山で生ものを食べられるのはうれしい。

ピークを過ぎ、平坦な森歩き。小屋に着く。便所で出す(いつも通り快便、大量)。若いにいちゃん(三姉妹の兄ちゃん)がザックの背面フレームを入れなおしている。フレームは途中でばっきりと折れている。

ここからさらに登り。岩場はないものの、わたしもだいぶきつくなってきて、足を上げるのがつらい。トレイルを登りきったところに、トレイルとは別に山頂までの道が続いているが、行かない。のらさんはびっしょりの汗。寒くてカッパが脱げない。おしゃべりをしながら歩いて気を紛らす。ピタパンの具は何がいいかという話。

ちょっと下り、そのあとゆるやかな山道。雨がぱらぱらと降ってきてのらさんは傘をさす。わたしはそのまま。雨はすぐ止む。しばらくしてから岩場の急激な下り。手を使って降りる。空は西側はどんより、東側は青空。対岸の山を眺めながら歩き、また森の中に戻って歩き。

段々と川の流れる音が聞こえ、川を越えたところのテント場で昼めし。薄平パン、落花生バター、チーズ。わたしは薄平パンを3枚食べる。そのあとで行動食をぽりぽりと食べる。途中で雨が降ってきて、傘をさす。そのあとでカッパを着て食べる。

3姉妹が直前を歩いている。また登り坂。体を持ち上げるのがつらい。雨は止み、体が熱くなってカッパを脱ぐ。山頂付近で雨。カッパを着る。

水場を目指して歩く。沢が出てくるが、目的の水場はもうちょっと先のはず、先に進む。ところがいくら歩いても水場が出てこない。ちゃんとした休憩をとっておらず、段々とわたしの歩きが雑になってくる。木の根や岩で足をすべらせたり、思っていたところと違うところに着地して体のバランスを崩したり、ゆっくりペースを保てず無駄に早足になったりする。

休憩する。行動食をむさぼり食す。どうもさきほどやりすごした沢が目的の水場だったらしいことを悟る。残りの水は1リットル、冷や飯でキャンプをするか、車道まで歩いて町に下りるか。2人とも歩き方が変。足の動きがぎこちない。着地を失敗し続けて、ふらふらする。「水が足りていないせいでは」と言って、2人で水をぐびぐび飲む。この時点で、町まで下りることが決まる。

トレイル自体が斜面になっていて、靴の中で足がずれて歩きにくい。木の根がよく滑る。また休む。ここまで思いのほか時間がかかっていて、車道に下りた頃には真っ暗ではないかと心配する。そのせいかわたしは早足になっていて、岩でずるっと滑ってストックで持ちこたえ、その次にまた岩でずるっと滑って手首でふみとどまる。

森のなかはどんよりと薄暗い。真っ暗になる前に車道に出る。ヒッチハイク。陽気でスポーティーなおじさんとその娘さん。「今まではアメリカ人ばかりだったけど、この間ドイツ人を乗せて、今日は日本人だ」とおじさん。

町の宿の前で降りる。宿兼食堂のところにチェックインしようとするが、誰もいない。「泊まりの人は電話を」という張り紙がある。電話はしたくないのでとなりの宿に行く。二段ベットがふたつある部屋。ふたりとも上の段。

閉店5分前の店に行き、ビール6本、ピタパン、溶けないチョコレートを買う。しばらく前にみそ汁をくれたお姉さんがいて、晩めしを作りすぎたから、と言っておかずとパンを頂く。おかずは芽キャベツ、人参、鶏肉炒め。台所では他に、男性ハイカーがバーガーをつくっていて、肉の焼けるすばらしい匂いが漂う。

歩き始めた頃によく会っていたカップルがいて(モウグリ君とうさぎさん)、話す。モウグリ君は「途中、マダニの感染症にかかった。すぐに救急センターに行き、5日間トレイルを下り、20日間薬を飲み続けた。すごくひどかった」と言った。うさぎさんは欠けた前歯を治したとのこと。

風呂場にはシャワーが2つあって、2人で入る。トマトジュースを飲む。台所で日記を書く。

起きたり寝たり。2度便所へ行く。足もとが冷えて足首が痛む。階段を下りるのが大変。ベット下段のおじさんのいびきがすごく、耳栓をして寝る。