その158

夜中、目覚めてそのまま眠れなくなる。明け方目覚ましが鳴り、起きる。真っ暗。気温が低い。着替え、テントの中で栄養いっぱいのお菓子を食べる。テントをたたみ、出発準備が出来たところで、空がうっすらと明るくなる。

厚ウール、ウィンドジャケ、手袋、帽子をかぶった格好で歩きはじめる。川で顔を洗いたいが寒すぎて洗えない。

登り坂。体をあたためるつもりで、ほぐすつもりで、ゆっくりゆっくりと歩く。段々ともよおしてきて、尻の穴を押さえながら歩くのが困難になる。車道のすぐ下で穴を掘ろうとするが木の根が張りめぐらされていて掘れない。草むらのなかに尻だけ隠して出す。トレイルから丸見えなので、ハイカーが来たらあいさつをしようと待ちかまえるが誰も来ない。とぐろを巻く。町で食事をした後のせいかうんこが臭う(トレイルめしだけの時はほとんど臭わない)。

車道に出る。山と湖が見える。夜は明けていて、上空は青空、地平線のまわりは白くかすんでいる。「どうして朝は景色が美しくみえるんだ」「太陽さんが顔を洗ったばっかりで光が澄んでいるんだ」

トレイルに戻り、のらさんが出しに行く。「最近ピーナッツが足りていないせいか渋い」と言う。「胃の出口まで詰まってる気がする。胃が働いていない。腸まで行っていない」のらさんは出ない、わたしはどんどん出る。「食べすぎで体に吸収されずにどんどん出してしまっている気がする」

ずっと森のなかで陽はあたらず、気温が上がらず、体は冷えたまま。「昨日の風で、気温が下がったんだろうか」「放射冷却というやつだね」とのらさんが教えてくれる。

午前中、あまり食べないでいたら、お腹がぐわっ、ぐわっと鳴りはじめる。のらさんのお腹も鳴っている。

わたしはしっかりと眠れていないせいか、体がだるく、歩くのがつらい。地図上では勾配のないなだらかな道。しかし登りが多く感じる。体が重い。たびたび休む。

小屋に着く。トレイル整備のおじさんがいて、便所で糞を分解する用のバクテリアを水で溶いている。イースト菌みたいなもので年2回行う、とのこと。湖で鳥が鳴いている。「アビの鳴き声だ」と言う。おひょひょひょひょと鳴く。ムースは今が発情期だという話。

昼めし。薄平パン、チーズ、落花生バター。靴下、中敷き、テントのシートを日なたで干す。のらさんはお腹が張っていてあまり食べられない。歩くたびに歩く振動がお腹に響くとのこと。むしむしと痛いと言う。

そのうちにわたしのお腹もむしむしと痛み出す。薄平パンが古いせいではないか、水の質が悪いのではないかという話になる(水はまずい。飲んだ後に糞のような残り香がある)。キャンプ場に便所があったので出す。めずらしいことに便所のなかにハイカーのための寄せ書き帳がある。読みながら出す。

木の根が張りめぐらされている道。水たまりと、ぬかるみと、そこにある木道。木道は腐っていたり折れていたり、乗ると真ん中が沈みこんだりする。木の根はつるつると滑って歩きにくい。

体がだるくつらい。気を紛らすためにわたしはひたすらしゃべり続ける。ストーンズは何故人気が持続しているのか?という話。

車道に出る。わたしたちの前を歩いていたカササギフエガラスさんカップルがいる。一緒にヒッチハイクをするが、なかなかつかまらない。男性陣は隠れ、女性2人が車道に立つとピックアップトラックが止まる。荷台に乗る。強風を受け続け、眼鏡と帽子をはずす。

宿の前でおろしてもらう。チェックイン。個室。荷物は別室。家は古いが、かわいげのある部屋。床板の間から下階が見える。子供が何人かいる、家族経営の宿。

宿は町はずれにあり、町まで歩く。レストランで地ビール、コブサラダ、ジャークチキン、揚げ玉ねぎ。ビールが体にしみて、2人ともすぐに酔っぱらう。お互いの苦労をねぎらう。

スーパーで買い出し。酔っぱらっているのでよく分からない。食料、今日宿で食べるもの、乾電池、ライター。陽が沈んだあとの、暗くなる前の、空の色を眺めながら、玉ねぎパンを食べながら歩く。

宿に戻る。洗濯機が空くのを待つ。シャワーを浴び、食料袋を詰める。ピタパンに野菜を詰め食す。わたしはビール、のらさんは牛乳。

アーカンソーさんからトレイルを降りるとのメールあり。のらさんが「せめて見送りたい」と返事を書く。わたしたちは彼女に対して何も出来なかったことを悔やむ。

のらさんは洗濯機を回しに行く。大鳥さんが洗濯機を使っていて、終わったら声をかけてもらう予定だったが、寝てしまっている。彼女の洗濯物を取り出し、わたしたちのを入れて洗濯機を回した、とのこと。わたしは今のテーブルで日記を書く。シェルパさんたちが到着する。ベッドに入ってすぐに眠ってしまう。