その156

明け方、やくざからピストルを買う夢を見る。目覚ましで起きる。テントを乾かしつつ(中がぬれている)、栄養いっぱいのお菓子を食べる。テントをたたむ。便所で出す。

歩く。ちょっとの間登り、そのあとゆるやかな下りが続く。この辺の山の中域は倒木と生い茂る葉っぱで山がごちゃごちゃしている。標高が下がるとすっきり整ったきれいな森になる(ごちゃごちゃ森から上に行くと、苔と、松のような木。さらに上に行くと吹きっさらしの岩と木道の道。しかし今日はそこまで上がらない)。

下り坂の途中で休憩。昨日テントを立てる時に虫に刺された左手足がはれている。腕時計をはずす。ウミが出る。ハッカ油をぬる。膝にもハッカ油をぬってよくもみ込む。お腹が張っている感じがする。行動食をひかえる。

さらに下って、川を渡り、舗装路に出る。舗装路には蜘蛛君とタルタルソースさんがいて、ヒッチハイクで町に降りようとしているが、車が一台も通らない。彼らに川沿いに差し入れの箱があったよと教えてもらい、ひき返す。炭酸水とクッキーをもらい、舗装路で食べる。土曜日なので、蜘蛛君たちは昼前までに郵便局に行く必要がある。車は相変わらず一台も来ない。彼らが郵便局に間に合うように祈りつつトレイルに戻る。

岩や木の根に悩まされることなく、乾いた土の上をすいすいと、気持ち良く歩く。大きな池が現れ、池の水を汲む。流れがないから汲みにくい。底からまいあがった砂がじゃんじゃん中に入る(あとで飲んだら泥くさくてまずい)。のらさんはふくらはぎが痛む。ポールでごりごりともむ。ここでも行動食は食べない。さきほどクッキーを食べたので、クラッカーも食べない。

またゆるやかな登り。わたしのお腹がぐうぐう鳴っている。のらさんはもうしばらく前から鳴りっぱなしだと言う。「とてもお腹がすいているのでお昼にしたいです」と言う。森はごちゃごちゃで道が狭く、腰をおろしてくつろげるような場所がない。

トレイル上にある岩に腰かけてめしにする。薄平パン、チーズ、落花生バター。岩の形の都合で、わたしはのらさんに背を向けて食べる。一人で食べているような、おかしな感じ。

相変わらず土の道をすいすいと進む。山小屋に出る。ここは今日の目標地点だったが、まだ早い時間だから先に進むことにする。

激しい下り、しかし大きな岩場はなく、整備され、石の階段などが組まれていて歩きやすい。谷間のキャンプ場に出る。川で水を汲み、顔を洗う。テーブルに腰かけてクラッカーを食べる。休んでいると目の前の焚き火の跡地でぽん、と音がして灰がもくもくと舞い飛び、わたしに降りかかる。
まだ時間が早い。明日降りるつもりの町に今日降りてしまうことにして、また歩きだす。

ここから激しい登り。やはり道が整っていて、めちゃくちゃな岩場はない。息を切らし、ゆっくりと登る。手を使う場所もなく、ほとんどポール使いのまま登る。山頂付近では道はなだらかになり、雨が降ってくる。空は明るい。ぽつり、ぽつりという程度。のらさんは汗びっしょり。風が体を冷やすので、わたしのウィンドジャケットを着る。行動食を食べる。今日はじめて。のらさんがガイドブックを見て、町の食堂の裏にテントを張れるという情報を見つける。なぜか宿に泊るよりうれしい。勇んで歩きはじめる。

下り坂。また雨が降ってきて、傘を片手に、慎重に下る。川を越え、車道に出る。車が一台も通らず、小雨のなかしばらく突っ立っている。やっと来た一台目に手を上げると止まる。ピックアップトラックの後ろにモーターボートがくっついている。トラックの荷台に乗る。がたぴし揺れてジェットコースターの気分。モーターボートが後ろからせまってくる感じ。「ボートがジョーズみたいだ」とのらさん。景色はがんがん流れ、冷たい風をもろに浴びて体を冷やす。流れる景色は歩いている時とは対照的で、楽しい。

町に着く。スタンド付きの食糧品店(兼食堂)が2件とその向かいにレストラン。レストランに行き、裏にテントを張らせてもらう。もういくつかのテントが張ってある。

レストランは土曜はイタリア料理の食べ放題。室内には、たびたび顔をあわせているハイカーの面々が勢ぞろい。ハイカーだけでなく地元の人々もたくさんいて、人でいっぱい。生野菜(レタス、トマト、ピーマン)、スパゲティ(ぐにゃぐにゃではない)、ミートボール、ラザニア(チキン、トマトソース味ミート、ハーブ味ベジ)。なるべくすぐにお腹がいっぱいにならないよう、休みながら食べる。また満腹になるまで詰め込んで店を出る。満腹だが苦しすぎて後悔、というほどではない。「中華は不自然にお腹いっぱいになる。油のせいだ。イタリアンはチーズでいっぱいになるけど、こっちの方が健康的」

テントのなかで、のらさんにハッカ油を膝にぬり込んでもらう。夜が更けてまた涼しくなる。芝生で月明かりで小便。家に灯りがともる風景。