その155

夜中、雨が降る音を聴く。暑い。厚手ウールとウィンドジャケットと靴下を脱ぐ(寝ている時暑いと、閉所的恐怖に襲われる)。たびたび目覚めるが落語をかけてすぐ眠る。目覚ましが鳴るが「寝よう」と言ってすぐ寝てしまう。

起きる。となりのテントの人たちは出発の準備をしているところ。くもり空。生ぬるい風が吹く。台風が近づいてくる時の風のよう。ぬれたテントをたたむ。栄養いっぱいのお菓子を食べる。穴を掘って出す。

歩く。昨日のハッカ油のせいか膝と足首の調子は良い。のらさんは膝が痛いと言う(歩いていたら段々良くなった)。岩場の急坂。岩の割れ目に足をかけて登ったり、岩や木の根を手で持って体を持ち上げたり。ストックを使っていない時の方が多い。朝早いのと、膝に負担をかけないようにと、とにかくゆっくりと、一歩一歩進む。のらさんが「ゆっくりゆっくり」と何度も声をかける。岩登りは大変だが、ゆっくりひとつずつこなすやり方だと息が切れない。

吹きさらし地帯に出て強風。休む。くもり空のすき間から青空が見える。これから歩く山々が見える。山は黄色に変わりつつある。「ブロッコリーがいっぱい」とのらさん。「もうダメになりかけてるやつ。ゆでてパサパサになってるやつだ」「炒めて食べた方がいいやつだ」

陽が射しているところとそうでないところで、山の色が違ってきれい。

坂を下ると大きな池。風で水面がさざ波のように動く。そのまわりは霧。苔の道を経て、また岩場の登り。木々の間からぬけ出て、吹きさらし地帯を這うように、四つん這いになって進む。強い風が吹く。のらさんが「はがれて落ちそうだ」と言う。下を見るのは怖いし、顔を上げて前をむく余裕もないようである。

木々のなかに戻り、山頂への分岐があるところで休憩。のらさんは穴を掘って出しに行く。分岐の看板の表記が今までのから他の団体に変わっている。眺めのよいところに荷物を移動して休む。青空。行動食、クラッカー。行動食をむさぼり食う。泥で汚れている手の上に出して食う。

ここまで来て、全然進んでいない気付いてびっくりする。ふつうの半分のペース。今日の到着予定地点まで、このペースだと日が暮れてしまう。しかしこの岩場が続けばペースを早めるのは無理。時間を気にしながら歩くことはあまりしたくない。のらさんは「ここからはがんばる」と言う。

長い下り坂。よじ登って越えたり、ずるずる滑って転びそうな岩場ではなく、土と根のゆるやかな下り坂。すいすいと下りる。しかしわたしは一度コケる(岩で滑った)。ストックが根と地面のあいだにがっつりと入り込む。ふもと近くまで下りたところの沢の水を汲む。ちょろちょろなので、半分しか汲めない。そのあとで大きな流れが何本も流れている。

坂を下りきったところに駐車場あり。そのそばの森のなかで昼めし。薄平パン、落花生バター、チーズ。小さい薄平パンも食べる。

出発。水を汲む。登り坂。岩場なし。地道に、息を切らしながら登る。のらさんが「暑い、暑い」と言う。ビタミン水をつくって、ごくごくと飲む。やがててっぺんに着き、少し立ち止まっていると、わたしの足がぶよぶよで力が入らなくなったので休憩する。ビタミン水を飲み干し、また新たにつくる。次に登る山が正面に見えている。その山は上半分がほとんどハゲて岩がむき出しになっていて、あそこを歩くのだな、ということがはっきりと分かる。

ケルン沿いに岩場を下り、森を歩き、やがて先ほど眺めていたハゲ岩登り。強烈な風。帽子がめくれ上がり、頭からずれる。空はくっきりと青空、風はぬるいのでつらくない。段々になっている岩に手をかけて登る。四つん這いで進む。山頂までずっとハゲ岩と風が続く。

頂上付近にでっかいケルンがある。先に到着していた蜘蛛君とタルタルソースさんと休む。四囲の山々を見渡す。南は勾配のある山の風景、その向こうに、高い山々がかすんで見える。北はなだらかな森がどこまでも続く。風力発電機が回っている。のらさんはここからの風景がすっかり気に入って「ここが一番好きかもしれない」と言う。強風でゆがんでいるわたしたちの顔の写真をたくさん撮って遊ぶ。

ここから岩場の下り。ゆるやかに斜めの、大きな岩の上を、滑らないように慎重に下る。風景をながめつつ、やがて森に入り、岩の道、根っこの道。森は倒木が増え、葉っぱが茂って汚なく見える。地味な、ただただテント場を目指すだけの歩き。

小屋に着く。小屋の近くにテントを張る。ちょろちょろ流れる沢の水を汲む。汲みにくく、とても時間がかかる。小屋前でご飯をつくりはじめるが、カップルは早々と食べ終えていなくなり、蜘蛛君、タルタルさん、大鳥さんはそろそろ寝る体勢になっている。静かにめしをつくって食べる。らーめんとご飯。らーめんはすすらないよう、はむはむして食べる。地べたでなく、倒木に腰かけて食べると膝がのばせて楽。つくっている間に豆の乾燥したのをたくさん食べる。らーめんの湯は沸騰しない(ストーブが変?)。のらさんは「山で飢えたい。頭は食べたい気持ちでいっぱいだけど、いつもお腹いっぱいだ」と言う。

小屋で寝る人たちは、小屋の前に食料袋を吊り下げている。クマ対策になっていない。

テントを張っている時はあたたかく、虫がたくさん飛ぶ。蚊に刺される。夜が更けて気温がぐっと下がる。