その153

夜中、腹がむしむし痛むものの、ほとんどの時間をぐっすりと眠る。いつも食べている即席煮込みめしを粉にして練っている夢を見ていて、目覚ましが鳴っても気付かない。

起きる。シャワーを浴びる。「こっちの石けんはぬるぬるしてなかなか落ちない」と言うと「石けんのせいなのか、水のせいなのか」とのらさん。久し振りに自分の服を着る。足首の補強にキネシオテープをはる。バナナを食べる。わたしはのらさんに言いたいことを伝えようとして、なかなか言葉が出てこない。「普段、ほとんどのらさんとしかしゃべってない。話す時相手に甘えるクセがついてて、しゃべるのがヘタになった」

朝食。のらさんはコーヒー。フランスパンでつくったフレンチトーストに甘いココア味の塗りものとバナナをはさんだもの。昨日の残りの葉っぱ、ブルーベリー、のらさんはキーライムのヨーグルト、わたしはたんぱく質たっぷりと書いてあるバナナ味のヨーグルトを食べる。たんぱく質たっぷりヨーグルトはねっとりと粘りがあって、なかなかのどを通らない。葉っぱ、ブルーベリー、牛乳は部屋に持ち帰るが全部は食べられず、飲めない。ガレージで荷物を詰める。快適な部屋との別れを惜しむ。

歩く。舗装路歩き、林道歩き、それから山道に入る。小さな登り坂でも、体を持ち上げるのがとても大変に感じる。丸2日間休んだだけで体はなまってしまう。わたしは腹が張っていて、着地するたびに胃腸が揺れ、鈍く痛む。ごろごろと音がする。

ふたりとも登り坂でたっぷりと汗をかき、ザックは臭いままなので、ついさっきまで快適に過ごしていたのがウソのようである。アバロンさんと太陽さんと抜きつ抜かれつ。休憩して腰をおろすたびに眠気がおそう。あくびが止まらなくなる。少しうとうとする。ハイカーが食べ物をくれるといって近寄ってきたが、それは夢だった。

途中から森が荒れはじめる。倒木だらけ。葉っぱがでたらめな方向に茂る。森の印象が変わったのでちゃんとトレイルを歩いているのか不安になるが、いくら歩いても目印が見つからない。道は踏まれている様子。景色がよく見える岩のうえで荷を下ろす。めしを食べている間に誰かが通りかかるのを待つという作戦。進みたくも戻りたくもない。

お腹は相変わらずぐるぐる、しくしくしている。揚げじゃがいも、赤ベルベット色のクッキー(砂糖のかたまりのような食感)、薄平パンにチーズを巻いて食べる。そこに同じ宿に泊まっていたDLLさんとおいちゃんがやって来る。「道はあってるよ」と言う。

歩く。森はますます荒れ果てて、何の手入れもされていない印象。遠くの山を眺めると、山の色が変わりはじている。緑が、赤や黄色に変わりはじめている。近くの木を見ると、はっきりと葉っぱが赤く変わっているものもある。

休憩すると眠いのは同じ。腹はめしを食ったらこなれたような感覚あり。のらさんは「暑い、暑い」としょっちゅう言っていて、やたらとのどが渇くようである。たくさん水を飲む。顔がむくんでいる。沢の黄色い水を飲む。

のらさんの新しい靴はサイズ感が違う。右足の方が大きく感じられ、靴のなかで足がずれる。また足の裏のマメの部分はだいぶ良くなっているものの、大事をとってかばって歩くのでペースはあがらない。わたしはしばらく自分のペースで歩いてから、立ち止まってのらさんが追いつくのを待つ。

目標にしていた小屋の分岐点に着く。時間が早いからもっと進みたい、しかしのらさんは万全ではないし、この先にテントを張れる場所があるか分からないからここで張った方が無難、と悩んだ末、先に進む。

とたんに石の登り坂、足もとが安定しない。水場は枯れ、そのあとに出てきたテントスペースを通り過ぎ、次の水場で汲む。ここから激しい、長い登り。岩場の急勾配の坂を登りきったあと、わたしは穴を掘って出す。大量。つやのある深緑色(葉っぱのせい?)。

その後、地面が湿って水気を多く含むようになり、木道と湿った地面の上を歩く。道は狭く、森は急で苔が増える。やがて木々が低くなり、松のような木が増えて森林限界前の風景。

わたしはトレイルからはずれたところにテント場を探しに行って靴のなかをぬらす。草地だが足もとはぐじゅぐじゅの湿地帯。山頂の吹きさらし地帯に出、霧に包まれる。大きな一枚岩以外のところは湿地、木道はばりばりに割れている。テントを張れる場所はどこにもない。下り坂でわたしはよくすべる、木の枝に身体をひっかけるなどして、うまく歩けない。水でぬれた方の足のキネシオテープがはがれて歩きにくい。キネシオは水にぬれると粘着性がなくなる。くっつかなくなったところを切り取る。

辺りが薄暗くなる。トレイルが少し広く、テントを張るのに丁度よい空間がある(その背後は崖、大きな岩場)。トレイルのど真ん中にテントを張るのは完全にルール違反、しかしここに張ることに決める。地面は固くしまっていて、明らかに何度もテントを張られている様子。

懐中電灯をつけ、ロープを垂らす木を探す。高山地帯にある松のような木は、枝がぼきぼきで弱い。固い木の幹が分岐しているところにぶら下げる。背が低く、ほとんど手が届きそうな位置。リスよけにもクマよけにもなっていない。

めしをつくる。アルコールストーブの燃え方が変。風防の穴から、地面から、コッヘルとのすき間から炎が飛び出る。しかしお湯はいつまで経っても沸かない。何度かアルコールを足す。生煮え気味の、わかめと乾燥豆のようなもの入りらーめんクリーミーチキン味、残り汁にご飯とミンチ豚肉。薄平パンに落花生バター。食料袋を吊るし、歯をみがく。テントを張り、着がえ、日記を書いて、横になる。明日は朝人が来ては困るから早起きの予定。黄金餅を流すがすぐに寝る。