その150

夜中、何度か目覚めるものの、志ん生をかけてすぐに眠る。明け方目覚め、まどろむ。久し振りにまともに眠った気分。

起きる。テントのなかで栄養いっぱいのお菓子を食べる。テントをたたむ。苔を掘りかえして穴を掘って出す。のらさんの赤くなっている足の裏はマメのなりかけかと思われる。昨日のがれき歩きでダメージを受けたのだ。バンソウコウをはり、その上からキネシオテープをはる(この後休憩のたびに靴下を脱いで足を乾かす)。わたしは足首、特に右足がにぶく痛む。

歩く。岩場の下り坂。それほど急勾配ではない。のらさんは足の裏をすべらせてずるっと皮がむけることのないように、気にしながら歩くのでペースが上がらない。

山小屋に着く。昨日泊りたかったところ。こじんまりとしている。ロッジと便所は離れていて、こちらの建物はまだ新しくきれいである。泊まり客が朝食を終えて出発の準備しているところ。ハイカーが床のはき掃除をしている(手伝いの代わりにめしの余りつきで安く泊まれる)。コーヒーと、のらさんはかぼちゃ蒸しパン、わたしはブルーベリーコーヒーケーキを食べる。パンを一切れ食べる。水をもらう。

歩く。風がまったくなく、雲ひとつない。道は登り坂、きつくはない。登りだとのらさんのペースは落ちない。これまで歩いてきた道のりがくっきりと見える。その反対側の山々、これから歩く森がどこまでも続いているのが見える。東の方の山々は遠くになるにつれ、起伏がゆるやかになり、やがてまっすぐな地平線になる。山の色はすべて同じ色。青と灰が混じったような。しかしすべて違う濃淡で表現されている。

岩をよじ登ることなく、とても歩きやすい道、あたたかい、のどかな空気。たびたび出る頂上には、山小屋に泊まっていたと思われる軽装のハイカーがいる。わたしは昨日よく眠ったせいか、体が軽く、歩くのが楽しい。「昨日と歩き方が違う。力強い」とのらさんに言われる。「昨日は体に力が入らなかったからなあ。岩場で体を持ち上げられなかったし、その後でよろけて後ろに落ちそうになってたし」とわたし。荷は軽く、体も軽く、昨日のようにお腹が減ることもなく、休憩を取らずに軽快に歩く。

小ピークの岩の、日がさんさんと注ぐなかで休む。靴を脱いで干す。メキシカンご飯をつくる。出来るあいだに落花生バターをなめつくす。日にあたりつづけて体が熱くなり、傘をさす。

ここから下り坂。大きな岩の下り。岩がよく滑ってグリップが効かない。パンツやザックをひきずる。道がきつくなってのどかな雰囲気がなくなり、ハイカーの数も減る。下ったあと登りかえす。大きな一枚岩がそのままトレイルになっていて、登りつづける。こちらはグリップが効くが、着地が斜めになって靴のなかで足がずれる。そのせいかのらさんは非常に歩きにくそうで表情が険しい。わたしは町に降りたら2泊して足のケアに努めた方がいいのではと考えはじめる。

向かいから来た犬がジャンプして岩に登ろうとして失敗してあごを打ち、主人を見上げて「行けないよ」という表情をしている。主人が「いけ!いけ!」と怒鳴るとやっと岩を飛びこえる。「左に行くと山頂」という看板があってハイカーが「絶景だ」と言うが、わたしたちは当然のようにそれを通り過ぎる。小さな犬がトレイルに座って、遅れて登って来る主人を待っている。

下り坂。急だが岩が階段のようになっていて丁度良い位置にあり、足さばきがそれほどきつくない。わたしはすたすたと下ったあとしばらく立ち止まって、のらさんが追いつくのを待つ。トレイルは狭く、森が茂り、遠くで水の流れる音が聴こえつづけている。

川に出て、水を汲む。ここからはゆるやかな道。かわいい森、落ち葉で地面がおおわれていてまだ春先の頃の道を思い出す。「あの頃は落ち葉がかさかさに乾いていてよかったなあ。ここはじっとり濡れているもんなあ」と話す。

テント場を探しながら歩くが見つからず、やがて簡易小屋に着く。小屋のそばにテントを張り、わたしは荷物の整理、のらさんはめしの準備をする。辺りは暗くなる。鮭入りじゃがいも、ピリ辛チーズ味ご飯を食べる。他にテント泊が2人、小屋泊はスニッツェルさん1人。ここからは町が近い、みんな町まで降りてしまう。わたしたちが食事をしているうちに、他の人たちは寝てしまったのか静まりかえっている。テントに入り、のらさんは足の裏にラベンダーをぬり、わたしの足首にもぬってくれる。わたしはスマートフォンのライトで日記を書く。のらさんは眠ってしまう。日記を書きおえると足をもんでくれる。