その148

夜中、目覚める。眠れなくなる。品川心中、文違い、居残り佐平次、らくだ、厩火事中村仲蔵を聴く。眠り、目覚ましで起きる。荷をまとめ、テントを乾かしつつ、テント内で栄養いっぱいのお菓子を食べる。徐々に空は明るくなるが霧で白い。厚いウールの長袖を着る。山小屋で水をもらう。台所でお姉さんが1人で朝食の準備をしている。

歩く。昨日の続きの風景。木々のなか、岩の道、ゆるやかな登り。たまに開けたところに出る。霧で真っ白。夜露にぬれた背の低い木に触れて足がぬれる。急にお腹が痛くなり、背の低い木の陰で出す。大量。岩場の登りを抜け、森林がなくなる。冷たい風が吹く。風は左側から吹いてきて、左目のめがねのレンズがくもって見えなくなる。風のあたらない所で休む。甘いクラッカーを食べる。

山小屋で休憩。コーヒー、ブルーベリーコーヒーケーキ、甘いチョコケーキ、野菜とレンズ豆のスープを食べる。のらさんがモーレツに腹をすかしている。わたしはまた腹痛。出す。

カッパを着込み、手袋をする。これから高山地帯。霧で真っ白、強風。歩きはじめてからすぐに道がなくなり、がれきの上を行き、立ち止まって引き返す。ケルンを見つけ、ケルンを頼りに歩く。ケルンにたどり着くと次のケルンがかろうじて見える。いつもクマのぬいぐるみをザックにぶらさげているお姉さんが上からやってくる(クマなし)。

山頂に向けての登り坂、石の道だが歩きにくくはない。山を登っている高揚感で気分が盛り上がる。がれきの石の上で小鳥が鳴く。すごい勢いで流れる雲のすき間からたまに青空がのぞく。太陽が雲のむこうに丸くくっきりと見える。軽装の東洋系の若いカップルが前を歩いている。男性の方がかなりバテている。女性が励ますと猛然と駆け出して、その後また動けなくなる、という進み方。わたしたちが先に行く。頂上の建物が見えてくる。

頂上に着く。山岳列車の終点、駐車場、ビジターセンター。山頂の看板前で写真を撮る。ビジターセンターはたくさんの観光客でにぎわう。売店にてクマとムースが描かれた陶器(おちょこの大きさ)、磁石のプレートを買う。ベンチに座って薄平パンの落花生バター巻きを食べる。人をたくさん乗せた汽車が到着して、人々は山頂の看板の前で写真を撮るために列を作る。

歩きはじめる。がれきの石の下り、ケルンを頼りに進む。汽車が下りていく。バイクが車道を下っていく。霧が徐々に晴れてきて、これから先の稜線の道が見える。山が連なっている。振り返ると先ほどの山頂がくっきりと見える。

アイウォックスさん、白フクロウさんがトレイル脇で休んでいる。。二か月前にわたしが山の中で熱を出してダウンした時以来の再会。抱き合って喜ぶ。一緒に歩く。山の谷間に明日降りる予定の峠道がみえ、次の山、さらに向こうの山、これからあの稜線を歩くんだと白フクロウさんが教えてくれる。彼らと一緒に歩いているトレイルトーカーさんのペースが遅く、岩場の下りでかなり苦労している。彼らに会えることももうない気がして、たまに言葉を交わしながら、彼らのベースで歩く。

ゆっくり歩くのもわりと疲れると知る。肩の荷も重くなる。遅いペースに合わせている白フクロウさんはすごいと感じる。「最後まで歩けなくてもいい」とアイウォックスさんは言う。わたしはお腹が急激にすいてきて、痛くなる寸前(わたしはあまりにお腹が減ると腹痛になる)。休憩して食べる。いちめんがれきの山。眼下には町。山と山の谷間に山小屋が見える。

山小屋では夕食の準備中。水をもらい、トレイル脇で夕食。ツナ入りじゃがいも、ブロッコリー鶏ご飯。行動食をたくさん食べる。

アイウォックスさんたちと、近場でテントを張れる場所を探しに行くが見つからない。谷間の吹きさらし。体が冷える。

地図に載っている、だいぶ山を下ったところにあるテント場に向かう。激しい下り、テント場は人がいっぱい、スペースがない。段差のある、狭い空間にむりやり張る。テントはななめでたるんでいて、少しのことで全部倒れてしまいそうである。ザックと靴を外に出して、横になれる場所だけを確保する。

のらさんは明るくてきぱきと振舞ってくれる。眠れるようにと足をもんでくれる。ラベンダー油を嗅ぐ。わたしの懐中電灯はしっかりロックしたはずなのに、日中つきっぱなしの状態になってしまっていて、もうつかない。長々と日記を書く。