その118

夜中、目覚める。体じゅうがあつい。「はあはあ」と言葉に出しながら息をする。熱を計ると40度を超えている。のらさんがベットの横にずっと座っている。 

朝。のらさんがモーテルのおばちゃんに「病院に行きたい」と言いにいく。おばちゃんは病院まで送迎してくれる人に連絡を取ってくれる。 

送迎してくれるのは、まだ定年後間もないといった感じの、小ざっぱりとした格好をした、静かな雰囲気のおじさん。彼はこの町を通るハイカーの手助けをしている。 

モーテルの前の一本道を5分ほど走る。まだ出来たばかりだという、小さなクリニック。内装もぴかぴか、病院くささがない。80年代のポップス音楽がちいさな音で掛っている。

 受付。症状と、トレイルを歩いている事を伝える。保険、血液検査した場合どこへ送付するか等の話。料金の支払い。やりとりはのらさんとおじさんがしてくれている。わたしは何かの書類にサインする。受付のおばさんがわたしの名字を指差して「これがファーストネームか?」と訊くので「その通り」と答える。わたしは終始ぼんやりとしている。

 別室に移動する。陽気な表情の若い男性医師がわたしの目、耳、鼻、口、胸、背中を眺めたり触ったりし、送迎のおじさんと言葉を交わし、いったん外に出て、それからよし決めたぞという表情で戻ってくる。ライム病(ダニの感染症)に対する抗生物質を処方するからそれを服用するようにとのこと。血液検査はしない、まあこれを飲んでおけば間違いはないだろうという雰囲気。この部屋は冷房ががんがん効いている、わたしの体はどんどん冷えていく。 

クリニックの向かいにある、巨大モールの巨大スーパーマーケット内にある薬局でのらさんが抗生剤を受け取る。スーパーマーケット内の冷房もまた強力なので、わたしはひとり外で待つ。陽のあたる駐車場をゆっくりと歩く。 

部屋に戻る。震えが止まらない。ダウンジャケットを着たままベッドにはいる。抗生剤を飲み、眠る。

 目が覚めると、落ち着いていた体温がまた上昇しはじめ、またはあはあと荒い息遣いになる。抗生剤を合わせて飲んでもよいという解熱剤をのらさんが近くの商店で買ってきて、それを飲む。

 日が暮れて、体温がおちつく。体が軽くなったよう。のらさんがりんごをむいてくれて食べる。今日ものを食べるのはこれがはじめて。そのあとは、ただ横になっている。テレビはつけない。