その117

夜中、眠れない。志ん生。庚申待。淀五郎。富久。替り目。雨が本降りになってテントを強く打ち、志ん生の声が聴こえなくなる。気温が下がり、地面からの冷気がしんしんと伝わる。のらさんもあせもをぼりぼり掻いているうちに目覚め、寒いと言う。体をスプーン状にくっつける。となりのテントのハイカーもすっとごそごそ動いている。

明け方、少し眠る。起きる。雨は小降り。テントの中でナッツ棒とチーズが溢れんばかりに挟まったクラッカーを食べる。泥で汚れたテントをたたむ。泥で汚れた杖や雑巾を沢で洗う。

歩く。寝不足で体がだるい。のらさんもだるい。疲れた時に登場するローリング・ストーンズの「ふっふー」を朝から歌いながら歩く。

舗装路に出る。材木工場。赤いレンガの大きな建物。やがて町の風景が見える。ガソリンスタンドの商店でベーグルに卵とハンバーグを挟んだものを食べ、コーヒーを飲む。

郵便局でわたしたちと共に旅する箱を受け取る。約一ヶ月半ぶりの対面。郵便局の勝手口で荷物をひろげる。箱からダウンジャケットやダウンパンツなどを取り出し、半袖ティーシャツや短パンを箱に詰める。ついこの間まで猛暑だったが、これからまた寒さがやってきそうなのだ。箱を二週間後に着く予定の町に送る手続きをする。

箱を詰め替えているあいだに、わたしはだんだんと寒気がしてきて、やがて寒くてたまらなくなる。取り出したばかりのダウンジャケットやカッパを着る。

二日後に着く町で久しぶりに宿に泊まり、ゆっくり過ごすつもりなので今日はどうしても歩きたいと言い張っているうちに、わたしはふらふらになり、歩くのも苦痛になり、近くにあった図書館のソファにどさっと座り込んでそのまま動けなくなる。それでもまだ歩けるかそれとも無理かと悩む。のらさんはわたしの様子を見て、「もうわたしの腹は決まっている」と言った。

のらさんが近くにある宿に泊まる手続きをしに行く。やがて戻ってきてわたしも宿に移動する。のらさんが買ってきた牛肉とチーズのサンドイッチ、レタスとズッキーニのサラダ、ブルーベリーのヨーグルトを食べる。ふらふらでも腹は減っている。

シャワーを浴びる。熱い湯を浴びるのは久しぶり。裸になると悪寒がひどくほとんど立っていられない状態。シャワーから出るとダウンジャケットとカッパを着込んでベッドに潜り込む。ベッドに入っていても寒くてたまらない。

うとうとして目覚める。顔が真っ赤でぱんぱん、顔が大きくなったようだとのらさんが言う。氷の入った袋を頭に乗せる。解熱剤を飲んで眠る。のらさんは洗濯やテントを干す作業をする。

薬が効いたのか夕方になって体が楽になる。マフィンと甘いお菓子とヨーグルトを食べる。のらさんが買い物に行き、わたしはまた眠る。

ハムとチーズのサンドイッチ、揚げ鶏肉のバーガー、バナナを食べる。解熱剤を飲む。またのらさんが買い物に行って戻り、マフィンとパイナップルのケーキを食べ、牛乳を飲む。

ベッドに横になり、テレビで野球の試合を観る。目が疲れるので途中でやめる。バラカンさんのラジオを聴きながら寝る。