その115

夜中じゅう雨が降る。明け方に強く降る。雨が止むのを待ってテントの中でぐずぐずする。

起きる。テントの中でナッツ棒とベーグルを食べる。雨は小降りになる。びしょびしょのテントをたたむ。カッパを着て、ごみ袋を切ってつくったスカートを履く。

歩く。暗い森。雨が降るとピーナッツ蛙とちび太やもりがトレイルに出てくる。前を歩くわたしはちび太に気がつくことはあまりない。のらさんはよく気がつく。奇跡的に踏み潰すことはない。

雨が止む。風が吹くと木から雫がぼたぼたっと落ちてくる。沢の水を汲む。雨が降ったおかげか、沢の水はちょろちょろと流れている。何日か経てばまた涸れてしまいそうな流れ。

カッパとスカートを脱ぐ。体が軽くなる。気温はいつもよりぐっと低い。蚊はたくさん寄ってくる。蚊を避けて、車道に出たところで休む。

車道からトレイルに入るところにクーラー箱が置いてある。中にはカットされた西瓜。一切れずつもらう。冷たくてみずみずしい。黒い種はなく、白くて小さい種がある。ぜんぶ食べる。

薄平パンでチーズと落花生バターを巻いて食べる。もっちりとした生っぽい白い生地のパンと、口に含むと簡単には無くならないねっちょりした落花生バターをゆっくり味わうのがわたしたちの毎日の楽しみである。食べ終わってしまうとがっかりしてしまう。今日はあんまりがっかりしたので、そのあとにチーズを挟んだクラッカーを食べる。

歩く。雨は降らないが、日は出ず曇り空。森のなかは相変わらず暗い。わたしの体調が良くないせいか、テントが水を含んで重たくなっているせいか、荷物が重く感じられ、肩にくい込む。休憩してナッツとレーズンとチョコレートが混ざった行動食を食べはじめると止めることができずにいつまでも食べる。『喫茶と呑み処アパラチア』の続きをやる。構想は膨らむ。細部を詰める。

山のなかの大きな池のほとりにある小屋。ここには管理人がいて、マット付きのベッドがあり、朝にはコーヒーとパンケーキが戴けるというので、ハイカーの誰もが心待ちにしているところ。

管理人の小柄なおばさんにあいさつをする。小屋には泊まらず小屋の裏手にテントを張る。テントは中までびっしょり濡れているので、張ってから入り口を大きく開けてなかに風を通す。
テントを乾かしている間に食事の準備。わたしは発熱の症状が出そうな気配。葛根湯を飲む。煎り枝豆をたくさん食べる。熱い潰したじゃがいもを食べると、胸のあたりが温まる。ブロッコリーと乾燥トマトと揚げ玉ねぎ、麩と高野豆腐と生姜が入ったチーズ味のご飯を食べる。小屋の裏手の大きなテーブルにはわたしたちの他にハイカーがずらりと並んで食事をつくっている。らーめんやチーズ味のご飯など、皆だいたい似たようなものを食べている。

テントは中までびっしょり濡れたままで何も変わっていない。雑巾で一通り拭く。のらさんは池で足と顔を洗う。まだ明るいと思っていた時間に、もう暗くなりかけている。だんだんと日が暮れる時間が早くなっているように感じられる。季節が変わりつつあるせいか、わたしたちが北に移動したせいか。このところ曇り空が多いだけなのかもしれない。

しばらくすると、また雨が降り始める。雨がテントを打つ音を聴く。気温がぐっと下がってくる。辺りがくらくなってからすぐに眠りに落ちる。