その96

明るくなってから目覚めるが眠い。寝袋のなかでだらだらする。

起きる。シナモン味の麦粥に栄養いっぱいの白い粉を入れて食べる。となりでうさぎが草を食べている。

テントをたたみ、歩き出す。岩の道だが、岩はそれほど多くはない。のらさんがブルーベリーを摘む。坂道を下る。

大きな川、それを横切る長い長い橋、絶え間なく行き交う車を山の上から見下ろす。しゃくなげに似た葉っぱを持つ木の、白い花がたくさん咲いている。坂を下りきるとこじんまりとした池が現れて、蓮の葉っぱと花がびっしりと浮かんでいる。

舗装路に出る。小綺麗な建物が立ち並ぶ通りを抜け、先ほど山から眺めていた長い橋を渡り始める。ここは高速道路で、その横に歩道がちょこんとくっついている。大型車が轟音を立ててすぐ脇を通り過ぎる。その風圧と共に橋がぐわんぐわんとたわんで、わたしたちの体を揺らす。

橋の途中ではっとして立ち止まる。地図を眺める。先ほど通り過ぎた小綺麗な建物が立ち並んでいた通りは、わたしたちが立ち寄るつもりの町だったことに気がつく。食糧補給をし、一泊してゆっくり過ごすつもりの町だった。わたしたちはこのところ道を間違え、水場を通り過ぎる失態を繰り返してきたが、今度は町まで通り過ぎてしまった。

来た道をもどる。町のなかの教会に入る。この教会のなかにはハイカーが寝泊まりできる施設がある。建物の中はハイカーやハイカーの荷物が発する、すえた匂いが染み付いている。施設の裏庭にテントを張る。

教会のおじいさんがスーパーマーケットまで車で送ってくれるというので乗せてもらう。車は田舎道を抜け、古い建物が立ち並ぶ賑やかな町の表通りを抜け、その郊外のスーパーマーケットに着く。おじいさんは車で待っているという。わたしたちは急いでかごに食べ物を投げ入れてまわり、長い行列ができていたレジを終えて駐車場に戻ると、待っているはずの車がいない。車を移動したのかと、スーパーマーケットの広大な駐車場をぐるぐると歩いて探す。疲れて休もうと思っているところに、たくさんのハイカーを乗せたおじいさんの車が駐車場の入り口に乗り付けられるのが見えた。

車は高速道路をひた走り、トレイル沿いの町に戻る。ここは教会のほかに、いくつかの宿泊施設と商店と食堂がある、小さな集落。

教会の芝生で、スーパーマーケットで買ったものを食べる。大量の揚げ鶏肉と牛乳、トマト、小さなパン、チョコレートケーキ、ドーナツ。山では食べられないものばかり。大きな揚げ鶏肉にかぶりつくと、肉ではない。というか肉に辿り着いていない。衣ばかりがやたらと大きいのだ。衣をほぐしながら食べると、大量の揚げかすが残った。

わたしの靴は破れが目立ち、靴底が剥がれかかっている。小さな山道具屋に行くが目当ての靴はない。このようなところでは普通に置いてある燃料用アルコールもない。

パイやケーキやパンを売る店に入り、いちご味のアイスクリームと、コーヒーを買う。アイスクリームにはいちごが丸々入っている。

教会に戻り、シャワーを借りる。勢いよく出る、熱い湯を浴びるのは久しぶり。しばらく前に床屋で切った残りの髪がまだ頭に残っていて流れ落ちていく。ティーシャツを一緒に洗う。

濡れたままのティーシャツを着て教会の庭で陽の光を浴びる。たくさんのハイカーが出入りする。若い人ばかり。年寄りは宿に泊まるのだ。

宿に泊まっている、おばさんハイカーのアイウォックスさんが遊びに来てくれて、久しぶりの再会に抱き合って喜ぶ。

靴の補修をする。穴の開いているところ、靴底が剥がれかかっているところにダクトテープを貼る。

先ほどのパイやケーキやパンを売る店に戻って食事をする。格安の値段で売られている、バジルとトマトが入った大きなパン。アボカドとモッツァレラチーズが入ったサラダ。スイカ味の飲み物。アボカドとモッツァレラチーズは冷えていて、口の中でもったりととろけて味わい深い。
教会の外でアイフォーンをいじる。わたしはインターネットで靴を買い、のらさんは長袖ティーシャツを買う。のらさんが今着ている長袖ティーシャツは生地がぺらぺらになり、色が変わり、ところどころに大きな穴が開いている。しばらく後に着く町に商品が届くよう手続きをする。
夜が更けても教会は煙草を吸いながらおしゃべりをしたり、ビールを飲んだり、ギターを弾くハイカーで賑やかである。昼間これから出発する、と言っていたハイカーたちもおしゃべりの輪の中にいるのである。電灯が明るく、テントの中を照らす。帽子を顔に掛けて眠る。