その74

起きる。陽は高く昇っている。テントをたたむ。栄養たっぷりのチョコレート菓子を食べる。

歩く。山を降りたところの川で水を汲む。穴を掘って出す。倒木に座って休む。3人のグループの若いハイカーたちが、ひとり過ぎ、しばらくしてからまたひとり過ぎ、といった間隔でわたしたちを抜いていく。女性がひとり、男性がふたり。三人とも、ラジオや音楽を鳴らしている。男性たちはだるそうに歩いていて、わたしがあいさつしても何も言わない。何度か抜きつ抜かれつするが、やはり何も言わない。

トレイルの管理団体の女性とすれ違って話をする。彼女によると、つぎの町では今年から町中にテント場が用意されているという。昨日苦労して立てた予定を覆し、通り過ぎると決めた町に泊まることにする。あさって町に着く予定、今日は歩けるだけ歩く。

沢沿いの倒木に座って休む。桃とバナナ味の麦粥、薄平パンに落花生バターとチーズを巻いて食べる。水を汲む。

小さな登り坂と小さな下り坂の繰り返し。汗が噴き出し、体が臭う。昼めしを食べてしばらくしてから、体じゅうが疲れる。今日はまだそれほどの距離を歩いていない。しかし歩き過ぎた夕暮れのような疲れ。足の裏、足首、ふくらはぎ、背中、肩がじわじわと痛む。頭も痛くなる。「今日は暑いし蒸してるし、そのせいかもしれない」「こんな日が続くと厄介だなあ」

石や木の根に引っかかって、何度もつまずく。転びそうになるところを踏ん張る。突っかかって、体が宙を舞って着地する。まだ転んではいないところが救いだが、疲れているうえに宙を舞うと体に余計な負荷がかかって気分が悪い。しかもこれが頻繁に起こる。「おれは歩き方がおかしいのだろうか」わたしは悩む。歩き方を色々と変えてみる。やはりつまずく。

今日抜きつ抜かれつしている髭もじゃのハイカーが(男性はたいてい髭もじゃだが)、すれ違うたびわたしがあいさつしても、何の返事もしない。今日会うハイカーは暗くてだるそうな人ばかり。髭もじゃの彼はわたしたちには無愛想、しかし他のハイカーとは元気な声で話している。歩くペースが遅く、わたしが追いついて彼の後ろにぴったりくっついて歩いても前に行かせようともしない。「とことんむかつく野郎だ」とわたしは言う。

わたしは全身が疲れきっていてちょっとでも気を緩めると今にもその場にへたり込みそうだったが、しばらくの間、むかつく野郎君にぴったりくっついて歩いていたら元気が出る。しかし、むかつく野郎君が水を汲むために脇にそれたので、また歩きが苦しくなり、登り坂になってまったく力が出なくなる。のらさんが何か食べたほうがいいと言うのでデーツを食べる。水をがぶがぶ飲む。水筒が空っぽになる。

小さな虫が目の前を飛ぶ。今までの黒い虫のほかに、白っぽい虫も混じっていて、何度ものらさんの目の中に入る。のらさんはその度に立ち止まって目の中から虫を取り除く。わたしは何度か鼻の穴から吸い込む。

簡易小屋に着く。のらさんは遠く離れたところに水を汲みに行き、わたしはテントを張る。テント場ではテントはここに張るように、と仕切りで区切ってある。仕切りのなかに張るが、地面がコンクリートのように硬く、ペグがささらない。

らーめんに落花生バターと麩とにんにくを入れて食べる。残った汁に米と辛いツナを入れて食べる。干しりんごと干しみかんを食べる。

夜暗くなっても気温が下がらず、風も通らず、テント内がむしむし。寝袋に入らず、お腹のうえに掛けて寝る。