その73

明るくなりだした頃に起きる。テントをたたむ。チーズ、栄養いっぱいのチョコレート菓子。

歩く。鳥の鳴き声が森に響く。この鳥は、安い予算でつくられたSF映画の宇宙船の操縦席の音のような、平たい電子音のような声で鳴く。森じゅうによく響く。朝しか鳴かない。「ほかだと鳴き声が響かないから、この鳥は広い空間の森にしか住まないのだ」とのらさんが言う。

沢で水を汲む。倒木の多い森。倒れてからずいぶんと経っているもの、まだ間もないもの、折れたばかりのもの。「このあいだの雷と豪雨で倒れたんじゃないか」とのらさん。折れた木や枝が多いうえに、棘のついた蔓のような植物がぐんぐんと成長していたり、刈った後の葉っぱや枝が散乱していたりして、森が荒れてみえる。倒れた枝や幹がトレイルを塞いでいる。またぐ、くぐる、迂回して歩く。

地べたに座って休む。干しデーツを食べる。「デーツは黒糖まんじゅうの味がする」とわたしが言う。のらさんが食べたのはかさかさしていて「黒糖カステラの味」と言う。次にわたしが食べたのはねっとりとしていて羊羹の味。のらさんは干し柿の味。デーツとはナツメヤシの実のこと。

倒木に座って青年が本を読んでいる。あいさつをして日本から来たと言うと、わたしの目をまじまじと眺め、控えめな小さな声で話す。彼の前ににあるクーラーボックスを開けてみると氷で冷えたビールがたくさん。遠慮する。

ここは小さな山が連なっている裏山のようなところ。傾斜は急で、草木が群がり茂っていて、腰を下ろしてご飯を食べる場所がない。トレイル上の、落ち葉の上に腰を下ろす。とうもろこし粥を塩とゆかりで味付け、煮込む。薄平パンに落花生バターとチーズを巻く。藪をかき分けて森の奥に入り、穴を掘って出す。

沢沿いの平らなところにマットを敷いて休む。蚊を何匹か殺す。のらさんはだるそうで眠そうであるが眠らず、蚊に刺される。沢の水を汲む。激しい坂道を登る。降りる。また登る。

山のてっぺんにテントを張る。山が黒く、焼けた後がある。ツナ入りじゃがいも、トマト味のご飯に乾燥トマト、にんにく、揚げ玉ねぎ。干しみかんを食べる。紅茶を飲む。喉が渇いて水を飲む。わたしはお腹がいっぱい、且つたぷたぷ。のらさんは食べ足りず、ナッツをかじる。

食べ終わっても陽は高い。蜘蛛や蚊や蝿や蟻や小さな黒い虫が体じゅうにまとわりつく。気にしないことにする。眼鏡と目のあいだに入ってきたものは殺す。

テントに入り、のらさんと今後の予定を話し合う。明後日か、その翌日のどっちかで着く町では用事が多い。休養も兼ねて長く滞在したい。しかしガイド本によると宿が休みか値段が異常に高いので泊まりたくない。なのでこの町には朝早い時間におりて、用事を済まし、町には泊まらずその日のうちに山に戻る、明日は時間調整を兼ねて、トレイル沿いの宿兼キャンプ場でゆっくりする。これだけ決めるのに長い時間がかかり、外はもう真っ暗。強い風が吹きはじめている。