その59

夜中、身体中を搔きむしる。昨日出来た腕の出来もののせいで右腕がぱんぱんに腫れている。

起きる。雨は止んでいる。ぬれたままのテントをたたむ。栄養いっぱいのチョコレート菓子を食べる。

歩く。山を下る。簡易小屋にボーイスカウトの集団がいる。健康的でにぎやか。少年たちの脇で出発の準備をしているハイカーたちは汚くてみすぼらしい。

茶色く濁った水が静かに流れる、おおきな川に沿って歩く。昨夜の雨でずいぶん増水したように見える。橋のすぐ下にまで、水かさが増している。

舗装路沿いの駐車場に、60歳くらいの白髪のおじさんがいて、バナナと飲み物をくれる。ここから町まで、車で送ってくれるという。もうすでにハイカーで車はいっぱいだから、一旦町まで行ってまた引き返してくるという。

茶色い川を眺める。鮫の絵が描かれているカヌーが流れていく。

おじさんが引き返してきて、大きな荷台付き乗用車に乗り込む。他のハイカーとおじさんとの話に耳を傾ける。車のなかは快適、急激に眠くなる。

町に着く。10分くらいで歩いて回れそうな、小さな集落。車で集落をぐるっとまわる。「買い物はそことあそこで。ここがランドリー。そこがレストランでピザとバーガーが食べられる。あそこが小屋で、寝泊まりできるしシャワーもある」ここには宿がないかわりに、トレイル上にあるような簡易小屋が町の真ん中にある。小屋で寝泊まりしつつ、町の食事を楽しめるというわけだ。

小屋に行って荷物を解き、濡れたテントを乾かす。晴天のもとでシャワーを浴びる。

公園には巨大な恐竜の模型。コインランドリーで洗濯。食料品店で買い出し。レストランで牛肉と玉ねぎのサンドイッチ、牛肉とトマトのハンバーガー、揚げじゃがいも、揚げ玉ねぎ、揚げピクルス。ゆっくりと、よく噛みながら食べる。

小屋に戻って荷物の整理。ハイカーたちが静かにぼそぼそと話す。皆あまり元気がなさそうで「疲れた疲れた」とばかり言う。「この辺は山に水場が少ないから歩きにくい。雨は毎日降るのに」と寿司酢さんがぼやく。若い女性ハイカーのシダさんがのらさんの靴を試し履きして歩き回る。彼女は靴の中で足が痛むという。彼女は軽登山靴、わたしたちはトレランシューズ。このところ、登山靴から軽量なトレランシューズに履き替えている人を多く見る。

町から離れたところまで歩き、通り過ぎる車にむかって親指を立てる。ハイカーはヒッチハイクという手段をよく使う。わたしたちは今回が初めて。「普通なら怪しまれて誰も乗せてくれないけど、トレイル沿いの道は別。みんなハイカーがどんな人たちかよく知ってるし、すぐにつかまる」と古株さんが以前言っていた。

10分くらいで大きな乗用車が止まる。50歳くらいのおじさん。「今日はカヌーを漕いでたんだ。川は今日はこんな色だけど普段はちがう」と茶色く濁った川が見えるところに車を止めて言った。

トレイルの入り口で降ろしてもらう。ゆっくりと歩く。川で水を汲む。荷物はずっしりと重く、登り坂はいつまでも続くが、体のだるさはない。歩く喜びを取り戻す。「町で少し過ごしただけで、体がずいぶん休まった。休むというのは大事なことなんだなあ」とわたしは言う。

なだらかな深い緑の山並み、その真ん中を、先ほどまでは大きく見えていた茶色く濁った川が細くうねうねと、蛇のように流れている。「アマゾンの風景だ」とのらさん。

テントを張る。ツナ入りじゃがいも、鶏だし味のらーめんと、らーめんの余った汁に白米を入れて食べる。コーヒーを飲む。雨は降りそうで降らない。日が沈んで空が赤くなる。夕方は雨が降ることが多いから、夕陽を見るのは久しぶり。

わたしのたんこぶのような膨らみの出来ものが、腰にもできた。どんどん増えている。のらさんは目のふちを何かに刺されてものが見えづらそうである。