その45

明るくなり始めた頃に起きる。雨が止んだばかり。テントまわりが水浸しなので、朝食はあとまわし。どろどろのままの服に着替え、どろどろのテントを撤収、沢に近い、水はけの良いところに移動して食事の準備。ブルーベリー味の麦粥、たんぱく質たっぷりのお菓子。穴を掘って出す。

昨日のぬるぬる道とは違い、適度な砂利が混じった硬く締まった路面。さくさくと歩く。山は峠道をひとつ隔てただけで、ころっと雰囲気が変わるところがけっこうある。

遠くには緑の濃い、平べったい山が連なっている。「こんな山の景色は初めてだなあ。また新しい場所に来たんだなあ」とのらさん。

休憩すると、わたしたちはいつも行動食を食べる。行動食は毎日のらさんが用意してくれていて、今日は「あられ雑穀チョコレート大豆」。ひとつのビニール袋にごっちゃに入っていて、適当につまんで口の中に流し込む。色んな食感が一度に楽しめるが、何を噛んでいるのか分からなくなる時もある。

舗装路に出る。ゆるやかに下って行くと、眼下に高速道路が見えてくる。長い荷台のトラックやキャンピングカーや乗用車がびゅんびゅん飛ばして走っているのが小さく見える。「小学生の頃集めてた、消しゴムのミニカーのサイズだ」
高速道路を渡る高架から手を振ると、車の人がこちらに向かって手を振ったりクラクションを鳴らしたりした。子供に戻った気分。

山みちに戻り、激しい登り道を登ったところで休む。薄平パンに落花生バターを塗ったもの食べる。

路面が硬く、なだらかで歩きやすい道が続く。ふたりともテンポよくすたすたと歩き続ける。歩きやすいのだが、風が強い。西の方からびゅうびゅうと強い風が吹きつけてくる。たまにぴたりと止む。するとずっと横風を浴び続けていたわたしはふつうの歩き方を忘れてしまっていて、突然体が軽くなってどう歩いたらいいのか分からない。

ちょろちょろとトレイルを横切る小川で水を汲む。下り坂の途中の草むらに地面が比較的平らな場所を見つけ、ここをキャンプ地とする。

森のなかをうろうろしている最中に動物のうんこを踏む。どこにいってもうんこの匂いがつきまとうので変だなと思っていたら、のらさんがわたしの靴を嗅いでくさいくさいと言ったのだ。わたしは靴を脱がない限りこの匂いから逃れられない。のらさんが貴重な水を使って靴の裏を洗い流してくれた。

日が照っているので木にロープを結びつけて、湿っている寝袋や靴下を乾かしていると、俄かにもくもくと曇ってきて雨が降り始める。

揚げ玉ねぎ入りじゃがいも、汚れメシ(と袋に書いてある。色んな香辛料が入っていてなんとも形容しがたい味)にたっぷり乾燥野菜を入れたものを食べる。

食べている最中にも一旦は止んだ雨が降り始める。ごはんの時間がいちばんの楽しみであるのらさんは食事中の雨を嫌う。「ごはんの時くらい地面に座ってゆっくりと食べたい」

急激に気温が下がって、寝袋に入っていても温まらない。寝袋はしっとりしてぺったんこ、マットが冷たくて体がひんやり。遠くで犬がいつまでも鳴いている。