その33

朝までぐっすりと眠る。明るくなってから起きる。チーズ味のねっとりとしたパスタ。

歩く。舗装路に出る。道路の脇にあるパイプから流れ出ている水を汲む。

トレイル脇の焚き火跡で、まだ焚き木がくすぶっている。焚き火をしていた人はもう出発したようで、あたりには誰もいない。焚き木を転がすと炎があがって燃え始めた。踏んづけ、土をかけ、汲んだばかりの水をたっぷりとかける。のらさんが用足しから戻る。「木の向こうにトイレットペーパーが落ちていて、なぜかその上にうんこがしてある」

焚き木を消すのに水を使ってしまったので汲みなおす。トレイルからずいぶんと下ったところにある水場まで行かなければならない。「焚き火野郎のせいだ」悪態をつく。

薄平パンを2枚ずつ。あら塩ビスケットをだらだらと食べる。ふたりとも疲れがたまっていて、休憩がどんどん長くなっている。

みちの真ん中に、しましま模様の細長いものが横たわっている。と思いつつ近づいていくと、しましま模様の先っぽがしゅっ、と持ち上がってぢゃあぢゃあぢゃあ、と大きな音がしたのでわたしはびっくりしてのけぞった。「がらがら蛇だ」とのらさんが言う。ぢゃあぢゃあいうのは威嚇しているのだという。
観察する。全長は1メートルくらい、胴の太さは直径7センチくらい。尻尾はずっと持ち上がったまま。草むらのなかにある頭をちらっと覗かせている。「けっこう太いぞ」「ほんとに蛇皮だ」「全く動かないな」「ねずみを丸呑みしたばっかりなんじゃないの」通れないのでトレイルをはずれて迂回する。

穴を掘って腹のものを出す。土の中は木の根がはりめぐらされているので、穴を掘るのはけっこう大変。しかしうんこは土の中に埋めなければ分解されにくくなるからなるべく深く掘る。うんこを地面のうえにしたままにしてはいけないのだ。「昨晩よく眠れたのもうんこの調子がいいのも、昨日ビールを飲んだから」とわたし。

トレイルは起伏が少なく歩きやすい。あまり変化がなくてつまらない。

山みちが途切れ、町に出る。点々と平屋の家屋、芝生がひろがるのどかな風景。宿に着く。古い木造の建物、テントがたくさん張れる広い芝生。ガレージの奥に宿の主人のチャックさんがいる。「5日泊まりたい」と言うと、「悪いニュースがある。これからめちゃくちゃ混むぞ」という。これからこの町でハイカーのお祭りが行われる。トレイルを歩いているハイカーが、お祭りのためにみんなこの町にやってくるのだ。
庭にテントを張る。わたしたちの予定はこうだ。1日目は、テントを宿に張ったまま、空身でトレイルを歩く。2日目はまったくの休養日。3日目と4日目は、お祭りに参加。そして5日目に出発する。

宿の台所で、ハイカーのシェフ君が肉を焼いている。ハンバーガーを作っている、いくらか寄付してくれるなら一緒に食べようという。肉の焼ける匂いがあまりに香ばしい。他のハイカーも肉が焼けるのを待っている。みんなで一緒に食べる。

庭先で、ゲームをして遊ぶ。5メートルほど離れた穴の空いた台めがけて、小豆の入った袋を投げる。袋が台のうえに乗れば1点、穴に入れば3点。点数を競う。コーンホールというゲーム。わたしはコツをつかんで穴にがんがん入れる。しかしチャックさんにはかなわない。彼はこれを毎日やっているのだ。

暗くなってからテントに入る。雨が降ってきて止む。町の灯りでテント内が明るい。すぐ近くの道路で車が走る音を聞きながら眠る。