その31

久しぶりに朝まで一度も目覚めずに眠る。まだ暗いうちに起きて便所に行くと、のらさんはすでに起きていて居間のソファーでスマートフォンをいじっている。ふたりでコーヒーを飲む。あまあまパンを食べる。

シャワーを浴びる。石鹸を体に塗りたくり、ゆっくりと丁寧に体を洗う。
わたしの体には、引っ掻き傷と虫に刺された後のような傷、そしてそれをぼりぼり掻き続けたあとがいくつかある。そこにのらさんがラベンダーの油を塗ってくれる。「ラベンダーの油は万能なのだ」と教えてくれる。

道具の補修をする。アルミで出来た鍋の保温ケースはぼろぼろ。食糧袋はまた他の箇所に穴。折れた傘の肢を再び補修。

チーズを齧りながら、アメリカ人の口に合うようにアレンジされた即席らーめんを食べる。

宿を出発。舗装路歩き、トレイルの入り口に戻る。空にはどんよりとした黒い雲。

歩きはじめてしばらくすると、うんこがしたくなる。宿でずっと待っていたのに出なかった奴である。歩く振動が腸には心地よいのだ。穴を掘って出す。のらさんも小便をしにいく。
「歩いているとすぐおしっこに行きたくなるわけが分かった」とのらさん。「ウエストベルトで膀胱が締め付けられてるからだ。で、ウエストベルトを緩めると膀胱がゆるんでおしっこが漏れそうになる。でもしばらく待ってると落ち着くよ」

一晩休んだ後なので、歩きは軽快。長い登り坂も下り坂もすいすいと進む。「せっかくシャワーを浴びたのに、もう汗でべたべただよ」とのらさんが言う。空は明るくなる。薄平パンに甘い塗りものを塗って食べる。

舗装路を越え、湖のほとりを歩く。日帰りのハイカーや釣りをする人、湖岸でのんびり過ごす人たちがいる。この辺は熊の活動が活発だから小屋は閉鎖、食料の扱いには気をつけろという張り紙がそこいらじゅうに貼り付けてある。熊鈴を鳴らしながら歩く。「これだけ人がいて、モーターボートのエンジン音とかも聞こえるのに、熊なんか出るのかなあ」「きっとおいしいどんぐりがたくさん成る森なんだよ」

ダムを歩いて渡る。休憩して果肉入り饅頭を食べ、飴を舐める。

登りはじめる。湖から離れて高度が上がっていく。空が暗くなり、雨が落ちてくる。このところ、夕方になると雨が降る。

雨粒がぽつぽつと落ちるなか食事の準備をする。テントのそばにめしの匂いを残すと熊が寄ってくるから、テント場につく前に食事をしてしまおうという作戦。
ツナ入りじゃがいもとスパイシーなご飯を食べる。チョコレートとせんべいとかりんとうが混じったものを食べる(これはいつも歩いている最中に食べているもの)。宿でたらふく食べたのに、もう腹が空いている。

少し歩いて水を汲み、平らな場所を見つけてテントを張る。まもなく日が落ちて辺りが暗くなったが、気温は下がらない。