その30

夜中、地面の冷気が体を冷やす。スプーン状にぴったり重なったり、向かい合って足を絡ませて眠る。

明るくなってから起きる。桃クリーム味の麦粥といちご味のたんぱく質たっぷりの菓子を食べる。

歩く。水を汲む。たっぷりと飲む。日が照っている。朝から太陽を見るのは久しぶり。

あたり一面、木と土が燃えた跡。焚き火のあとのような匂いが立ち込めている。火事があってからまだ間もない。「ハイカーが原因かな」「雷のせいかもしれないよ」ここ最近トレイル上で3件の山火事があったというニュースを聞いたばかり。焚き火の跡地でまだ焚き木がくすぶっているのを見かけたこともある。

水をたっぷりと飲む。ふたりともすぐに小便に行きたくなるので、必ず1時間にいっぺんくらいは荷物を降ろして休憩。「これは体のなかの水タンクがいっぱいということなんだろうか」とのらさんが言うので「脱水症状の時は尿がたくさん出やすいというのを昔漫画で読んだことがあるぞ。出したら出したぶん飲んだいた方がいいぞ」とわたしは言う。

薄平パンにナッツキャラメルを塗って食べる。パンは長い間ザックのなかにぎゅうぎゅうに押し込まれていたので、ビニール袋の味がする。

なだらかな山歩きから、濁流の川沿いの道。おおきな岩の切り通しを抜け、足元が岩ばかりの急坂を下り、轟音をたてる滝の前に出た。河べりを切り立つ崖に沿って歩く。

今日は週末で、滝を見にやってきている人がたくさんいる。わたしはうんこがしたくてたまらない。でも人がたくさんいるし、川沿いで隠れる場所はないから我慢して歩き続ける。「けつの穴を締めながら歩き続けるのはつらい」とこぼす。ここ数日間わたしは泣き言ばかり。

向かいから歩いてきた、サングラスをかけた中年の男性が声をかけてきて「君たちは神を信じているか」と言う。私たちはキリストがいかに偉いかと言う話をザックを背負ったまま10分間ほど聞き続けたがほとんど理解できなかった。話しが終わると彼は「君たちを車で町まで送ってあげよう」と言った。

車に乗って1分走ると食料品店が見えた。そこで降ろしてもらう。

ここは町というよりも、1本のまっすぐな車道に点々と店がある、町と町のあいだにある田舎の集落という風情。レンガ造りの宿に入る。宿の人が洗濯をしてくれるというので汚れものを託す。

まっすぐな車道の端を歩く。わたしたちのすぐ側を、大きな車体の車がスピードを落とさずに通り過ぎていく。ここは人が歩くようには出来ていない。

食料品店で4日分の食糧を買う。露店で牛肉とチーズがたっぷりと入ったサンドイッチを食べる。この牛肉は、たった今新鮮な生肉を焼いたばかりだというような、ほんとうの牛肉の味。

連日の雨でくたくたになっているテントや寝袋や靴を陽にあてる。のらさんは靴の匂いを嗅ぐ。「どぶの臭いがする」と言う。

先ほどのとは別の食料品店に行き、追加の食糧と本日の晩飯を買う。のらさんもわたしも、知らない町にある食料品店をぶらつくのが大好きなのだ。

宿の台所を借りる。缶詰めのチリソースを鍋にあけ、焼いたウインナーと刻んだトマトを入れて煮込み、塩胡椒で味付けをする。普段はお湯を注ぐか煮込むだけで出来てしまうものばかり食べ続けているから、こんな簡単な調理でも新鮮で楽しい気分。これと一緒に、とうもろこしチップスとチーズ、それにヨーグルトを食べる。あまり摂れていないたんぱく質をたくさん摂る。

ベッドは1人用のものが2つ。久しぶりに別々に眠る。