その20

夜中、目覚めて眠れなくなる。床が寝ている向きから横方向に斜めになっていて、わたしはのらさんの方に転げていく。一昨日眠れなかったときもそうだった。これが眠れない原因かもしれない。明け方近くに眠る。
 
起きる。とうもろこし粥と、薄平パンに落花生バターをたっぷり塗り込んで食べる。コーヒーを飲む。穴を掘って出す。
 
歩く。りすがそこらじゅうで動き回っている。よく見ていると、尻尾が大きくていかにもりすという姿のものと、もっと小さくて尻尾も短いものの2種類いるようである。小さいほうは何かよく分からないが、勝手にねずみということに決める。
 
水を汲む。水の流れが小さくて顔を洗えない。のらさんは手ぬぐいを水に濡らして首に巻く。
 
しばらくの間登る。山頂付近になって、見渡す限りの草原になった。四方の山々と、大きな空に浮かぶ雲を眺める。この風景を記憶に留めようとして、ゆっくりと歩く。
 
山を下り、登り、山の上にたどり着く。わかめごはんとドライカレーを食べる。たいへんな数の蠅が顔のまわりを飛んでいる。
 
また下り、登り、休む。干しりんごを食べる。蠅が多すぎて、景色が見られない。「蠅が景色だ」とのらさんが力強く言った。
 
にわかに空が曇って、シャワーのような爽やかな雨が通り過ぎた。傘をさして歩く。雨のあとにもわっとしたぬるい空気。
 
下る。小川沿いに緑が茂る。「今の雨で緑が伸びたみたいだ」とわたしが言う。
 
水を汲む。遠くで雷が鳴っている。雷のほうに雨雲があってどんどんこちらに近づいてくるのが分かる。ちょうどトレイルの脇に平らな場所を見つけた時に大粒の雨が降ってきたので、傘をさして雨宿りして、雨が通り過ぎるのを待つ。気温がぐんぐんと下がっていく。カッパを着込む。
 
雨が止んで、ここにテントを張ることに決める。味噌味の玄米汁とあら塩つきビスケットと干し牛肉を食べる。このところ長い下り坂を歩くことが多く、両膝が痛むので立ちあがったり木の上に腰掛けたりして、膝が固まらないようしながら食べる。しゃがんだままでいるともっと膝を痛めそうである。干し牛肉を食べようとすると、蠅がまわりに群がっていて、一緒に食べてしまいそうになる。わたしは切れそうになった。帽子をぶんぶんと振り回しながら食べる。
 
外で突っ立って日記を書いていると、右腕をつりそうになった。二の腕あたりの筋肉がこりこりに固まっている。のらさんが揉んでくれる。ついでに肩も揉んでくれる。
 
テントの中に入るとまた雨が降ってきた。雷がずっとごろごろと鳴っている。テントの支柱になっている歩くための杖の先っぽは天を向いていて、金属が剥き出しである。腕のこりこりは治らない。