その19

夜中、誰もいびきをかかない。小屋内では女性が6人と男が3人寝ている。女性が多いといびきが減るのだろうか。
 
ぐっすりと眠る。昨日は11時間歩いて9時間寝たことになる。
 
夜明けの少し前に起きる。気温が高く、寒くない。とうもろこし粥と大豆クッキーを食べる。紅茶を飲む。
 
水を汲む。顔を洗う。歯を磨く。女性のひとりが貝殻のアクセサリーを落としたというので皆で探し回るが見つからない。諦めて私たちが出発すると、遠くからあったという声が聞こえた。小屋の入り口近くの地面に置いてあったわたしのザックの下にあったのかもしれないと気がつく。
 
歩く。国立公園の終わりの看板がある。ここからまた自由にテントが張れる生活になる。
 
昨日に引き続き長い下り坂。左膝がぴりぴりと痛む。膝に痛みを感じるのは初めて。
 
車が何台も走る音がだんだんと近づいてくる。やがて大きな国道が見えてきた。大きなトラックが何台も行き過ぎる、広い国道の下を歩いて通り抜ける。
 
ここから、いままで下った分の登り返し。一回立ち止まると再び登り始めるときに足が重くなって歩くのがしんどくなるので、一定のペースで息を切らしながら登り続ける。
 
山の風景は国立公園に入る前の景色に戻った。木が葉っぱをつけ始めている。みち沿いには白や紫の小さな花が咲く。茶色いバッタのような虫が跳ねてそこらじゅうでかさかさと音を立てる。
 
どこまでも見渡せるような広い草原。その真ん中辺でパーティーが行われている。何人かの若い男女がハイカーに施しをしてくれていて、なんでも好きに飲んで食ってくれと言われる。わたしはバニラ味の甘い炭酸水とバナナを頂く。のらさんはさくさんぼ味の炭酸水とりんごを頂く。それからチョコレート菓子とパンに肉を挟んだものととうもろこしチップスを頂く。私たちは遠慮がちだったが他のハイカーたちはがんがん食べて飲んでいる。気持ちのいい草原のなかで寛いだ気分を味わう。
 
賑やかな空間をあとにして、また歩く。登り坂をまた一定のペースで歩く。
 
車が通れる砂利道に出たところで水を汲む。しばらく歩き、平らなところを見つけ、テントを広げて乾かし、その間に食事をする。潰したじゃがいもとゆかり入りの玄米汁を食べる。ゆかり入りのコーヒーを飲む(同じ鍋を使ったので)。蠅やよくわからない形状の虫がたくさんいる。蠅はわたしの眼鏡のなかにも入ってくる。
 
テントを立て、食料を木に吊るす。火をおこす。木は乾いていて、太い木でも焚べるとすぐに火がつく。焚き火をしていると蠅たちがいなくなった。火を消すとみんな帰ってきた。