その105

うっすら明けかかっている頃に起きる。テントをたたんで荷物をまとめ、歩きはじめる。まだ夜は明けたばかりである。朝日がまぶしい。

なだらかな道。平べったい大きな岩の上の道。岩の上に座り、栄養いっぱいのチョコレート菓子を食べる。坂を下り、急坂を登る。また下り、また登る。さらに下り、さらに登る。今日は岩を手でつかんでよじ登るような、油断のならない箇所はない。しかし石で組まれた急な階段や勾配や急な道が何度も繰り返されて体力を奪う。

頂上付近のだだっ広いところの石に座り休む。薄平パンでチーズと落花生バターを巻いたものを食べる。食べていると、先を歩いていたハイカーが戻ってきて「目印がない。道がわからん」と言うのでわたしたちも一緒に探すが目印は見つからない。他のハイカーがやって来てスマートフォンで現在地を確認したところ、わたしたち全員がちょっと手前で道を間違えていたことが判明する。

山を下り、舗装路を越え、また登り始めるが、そろそろ足が上がらなくなってくる。汗をだらだらかきながら何度も急勾配の登り下りを繰り返している上に、水場が少ないため水を抑えて飲んでいたのがいけなかったようである。だんだん体に力が入らなくなってきて、石に腰掛けて休んでいると、上から下りてきた軽装のおばさんが「山頂に自動販売機があるよ」と言う。

山頂に着くとそこには舗装路があり、駐車場があり、石造りの塔が建っていて、ここから景色を眺めようと車でやってきた人たちがたくさんいる。自動販売機でのらさんは甘い炭酸水を、わたしは色んなビタミンがたくさん入っているよと書いてある飲料水を買う。椅子に座って飲む。冷たくて、とびきり上等な味。生気を取り戻す。

眼下には森があり、森の間を湖と言って良いくらい横幅の広い川が流れている。ずっと遠く、霞の向こうに高層の建物の群れがうっすらと見える。

下る。下から軽装の若者の集団や家族連れが登ってくる。歩くのに疲れて両脇にいる両親に半分持ち上げられるようにして登ってくる子供がいる。

下まで下りきるとそこには池があって人がわらわらいる。池に浮かぶ小舟、池のほとりで肉を焼く人たち、駆け回って遊ぶ子供たち。

ごみ箱にごみを捨て、水道の蛇口から水を汲む。「かびか、土の味がする」とのらさんが言う。「たぶんそこの池の水だな」とわたしは言う。

池のとなりにはプールがあってたいへんな人出。プールの前にまた自動販売機があったので、アイスクリームを買って食べる。

動物園に入る。動物園のなかをトレイルが通っているのだ。ゆっくり動く赤きつね、手でお盆を傾けて水を飲むやまあらし、こちらを見つめて動かない山猫、ハンモックの上でくつろぐ黒くない黒くま、毛並みが不恰好なコヨーテ、あくびをするふくろう、不恰好なわしと雁。「鳥は羽根が短かったり不恰好なのが多い。そういうのを連れてきてるのかなあ。それとも飛べないように切ったのか」水槽にはなまず、亀、がらがら蛇。

山の上から眺めた、湖と見まがうほどの大きな川に架かる橋を渡る。川は水量が多く、水は止まっている。ぽっこりと丸い山々が連なっている。川沿いを貨物列車が走っている。どこか現実味がない。立体模型のようである。

山に入り、急坂を登る。息は切れっぱなし、体に力が入らず、腹がごわごわ鳴り、ばてる一歩手前。干しマンゴーをよくよく味わいながら食べる。

テント場に着く。水場は小さな水たまり。あめんぼが浮き、水を汲もうとした瞬間にかえるが飛び込んだ。しかし濾して飲むと、水道の蛇口から汲んだ水よりずっとおいしい。持っていた水をぜんぶ捨て、水を汲む。

ビタミンがたくさん入っていて水に溶かして飲むとおいしいよと袋に書いてある粉末を水に溶かして飲むととてもおい。瞬く間に飲み干す。ミンチ豚肉入りじゃがいも、甘いソース味のご飯。サラミをつまむ。またビタミン粉末水を飲む。水をたくさん飲んでしまったのでのらさんがまた水たまりに汲みに行く。「今日は水を飲み足りてなかったな」とのらさん。

風はなく、外にいても蒸し暑い。蚊を避けるためにテントに入ってさらに蒸された状態になる。