その103

目覚める。窓の外は明るくなりつつある。小便に行きたい気持ちが少しあるが我慢をしつつまどろむ。

他のハイカーが起き出してごそごそと準備を始めたのでわたしたちも起きる。台所でトマトとオリーブとモッツァレラの和えもの、ペンネとオリーブのサラダ、ペンネとズッキーニのサラダ、蟹をマヨネーズで和えたサラダ、醤油をかけた木綿豆腐、ベーグルを食べる。

荷物をまとめ、出発する。町はずれまで歩き、そこからヒッチハイクをする。屋根に山用自転車を積んだセダンが止まる。女性の方。車に乗ってから五分ほどでトレイルの入り口に着く。

歩き始める。急坂。なるべくゆっくりと。さわやかな風が吹いていて蒸し蒸ししない。汗もあまりかかない。一週間分の食糧が加わって荷物が重くなったおかげで肩への負荷が強くなり、高熱が出た頃から痛む左肩まわりがより痛む。

車道と交差するところに発砲スチロールの箱が置いてあり、甘い炭酸水が入っている。一本ずつ飲む。飲み干すとお腹がいっぱいになって、ぷくっと出たように感じられる。これはまた砂糖過剰摂取の拒否反応。

次の車道と交差するところにまたクーラー箱。甘い炭酸水、スナック菓子、果物、石鹸など。りんごと、栄養いっぱいのお菓子を食べる。

山の山頂付近は大きな岩の塊が積み重なっており、手を使いながら慎重に登る。登りきるといちめんに森が広がっているのが見え、その稜線上にはずっと岩が続いている。岩の上を歩き、やがて森のなかに入り、また岩の稜線に戻る。いちばん高いところにこの国の国旗が掲げてあって、眼下には湖、その向こうは山、その山の向こうに高層の建物の群れが霞んで見える。

山の向こうに大きな都市があるのだと分かる。岩に座ってベーグルを食べる。

わたしの左肩、特に鎖骨の辺りの痛みがますます強くなって耐え難い。のらさんが「あざみたいになってる」といってその部分にハッカ油を吹きかけてくれる。どういうわけかその後、すこし痛みが引いたように感じられる。魔法の油。

わたしは木に記してあるトレイルの目印を見失い、間違った方向に進んでその都度後ろにいるのらさんに訂正される。岩場の道でも岩に記してある目印を見失ってたびたび立ち往生し、岩と岩のあいだに足がはまって動けなくなり、岩に脛をぶつけてこぶをつくり、木の枝に頭をぶつけ、何度もよろめいて足首をひねり、そのたびにのらさんに心配される。わたしは腹が立ってくる。「おれはもうだめだ。おれはただ歩くことすらできない人間なんだ」

今日は久しぶりに長い距離を歩いている。ふたりとも疲労がたまっている。干しマンゴーを食べる。噛むほどに甘い果汁を感じる。

小屋に着く。すでに小屋周りにいくつかのテントが張られている。わたしたちは小屋から最も離れたところにテントを張る。近くを流れる沢の水を汲む。水は少なく、流れはなく、沢というより小さな水溜り。汲むと葉っぱのかすや土がたくさん容器に入る。浄水する。浄水器を持っていないハイカーがいたので、彼の分の水も濾す。背中じゅうを蚊に刺される。服の上から刺してくるのだ。

ミンチ豚肉入りじゃがいも、チーズとブロッコリー味のご飯を食べる。食べている頃に暗くなり始める。食糧袋を枝にぶら下げると枝がしなり過ぎて袋が持ち上がらず、他の枝を探しているうちに真っ暗になる。懐中電灯で照らしながら、枝を探し求めて森のなかをさまよう。

テントに入って着替えをしていると、のらさんの足にダニがくっついているのを見つける。このダニは大きいがまだ血を吸ってはいない。ダニ取り専用の器具でダニを剥がし取る。お互いの体に他のダニがくっついていないか、よくよく確認する。どんどん気温が下がって肌寒くなる。