その99

明るくなる頃に起きる。体温を計る。微熱あり。テントの中で、栄養いっぱいのチョコレート菓子を食べる。入り口は開けたままで、テントの中に入ってくる蚊を殺しつつ食べる。「虫とか蚊とか、絶対に慣れないと思ってたけど、さすがにだんだん何とも思わなくなってきた」とのらさん言う。「ダニの存在は大きいな。ダニがいたらやばいって普段から思ってると、他はどうでもよくなってくる」

解熱剤を飲む。テントをたたむ。ペグが一本ひん曲がっている。地面の中は石だらけなのだ。穴を掘って出す。形、大きさ、共に良し。のらさんが水を汲みに行く。わたしはゆっくりと時間をかけて体操をし、固まっている体をほぐす。

歩きはじめる。体は軽く、さくさくと歩ける。見渡す風景はどこまでも森、気分は爽快。左肩まわり、特に脇の下が痛む。右足の付け根も軽く痛む。「リンパ節があるところだ。外から入ってくる悪いものと直接闘う場所だよ」とのらさん。「じゃあまだ闘ってるんだな。無理して歩いて体力を使うと戦いが長引くことになるな」

遠くの森まで見渡せる、大きな岩に座って休む。薄平パンでチーズと落花生バターを巻いたものを食べる。

歩き始める。だんだんと体が重くなる。軽い頭痛がする。歩く速度が遅くなる。

一ヶ月くらい顔を見ていなかったハイカーが後ろからやってきて、わたしたちを追い抜いていった。このところのわたしたちのペースはとてもゆっくりなのである。

小さな沢で水を汲む。まだ陽が高いうちに歩くのをやめ、枯れた草で地面がふわふわしているところにテントを張る。風があるせいか水源が遠いせいか、蚊が見当たらない。

草の上に座り英語の勉強をする。のらさんは行動食をぽりぽり食べ始め、止められなくなっている。止めてからは、落花生バターを舐め舐めしている。

オリーブ油とツナ入りじゃがいもと、にんにくと乾燥野菜と揚げ玉ねぎ入りの複雑な香辛料で味付けされたごはんを食べる。今まであまり姿を見せていなかった蚊がたくさん寄ってくる。刺されたところをぼりぼり掻きつつ食べる。そのうち、何とも思わなくなった、などとは言っていられないほどの尋常ではない数の蚊が押し寄せてきたので、立ち上がってゆらゆら体を揺らしたり腰を振るなどしながら食べる。すばやく片付けをし、解熱剤を飲み、食糧袋をぶら下げる。蚊は今まで見たものよりも大きく、服の上からも刺してくる。化学繊維の、細かく織られた衣類の上からでも刺してくる。外にはいられないのでテントの中に入る。陽が落ちるにはまだまだ時間がある。英語の勉強をし、日記を書き、まだ明るいうちに横になる。