その89

夜中、たまに目覚めては雨が降る音を聞く。

明るくなってから起きる。昨日は早く寝て、半日近い時間を寝袋のなかで過ごしたことになる。雨は止みかかっていて、木から垂れ落ちる雫がテントにぼたぼたと落ちてくる。濡れたままのテントをたたむ。栄養いっぱいのチョコレート菓子を食べる。穴を掘って出す。テントまわりは糞場、穴を掘ったら古いちり紙が出てくる。

小屋の脇にある水道の蛇口から水を汲む。小屋を管理している人が来て言う。「今日の道は岩の道だから気をつけるように。ひと滑りがすべてを台無しにするぞ」

歩く。岩の道。岩は半分土のなかに埋まっていて、ぐらぐら動かない。なので昨日よりは歩きやすいが、濡れていて滑りやすい。森は濡れていると森らしく見える。

昨晩からの雨と湿気のせいで体や服が臭い始めている。わたしは頭痛ぎみで頭が重い。これも湿気のせいと決める。湿気は気力も体力も奪うから、とにかく大敵。「頭が痛いのは寝すぎなんじゃないの」とのらさん。「寝不足なのか寝すぎなのか、もう何がなんだかわからん」

岩の上に座って休む。薄平パンにチーズと落花生バターを巻いて食べる。さらに薄平パンにデーツを巻いて食べる。これはあんぱんの味。食べているあいだにテントを広げておくが、まったく乾かず。

歩く。ふたりとも足の痛みが増していくばかり。休んでいるあいだに筋肉が固まってしまうようで、歩き出しがぎこちない。「熱いお湯と冷たい水、両方が必要だ」とのらさん。「足を冷やして痛みを取って、あっためて疲れを取る」

倒木に座り、クラッカーを食べる。食べ終わるとのらさんは栄養いっぱいのお菓子の袋をじーっと見つめた後に「これも食べる」と言って食べる。「食べることでしか気力を保てない」と言う。わたしは急激に眠くなり、座りながら頭を垂れた格好で眠る。

歩く。岩はときたま出てくるもののだいぶ減り、シダの生える平べったい森の、平坦な道をさくさくと進む。頭痛と体の痛みはあるものの、まだまだ歩く喜びを保っている。

トレイルから少し外れたところにある、ちょろちょろ流れる沢の水を時間をかけて汲む。かつては川だったが今はからからに枯れているところを最近よく目にする。今は山が乾く季節。「昨日の雨は貴重だったのかもしれないぞ」

以前に誰かがテントを張った跡にテントを張る。ごみが散乱している。蚊がたくさん飛んでいる。火をおこそうとするが木が湿っていて火をつけられない。ツナ入りじゃがいも、にんにくと乾燥野菜入りのスパイシーご飯を食べる。のらさんのお腹の動きが急に活発になって、あわてて森の中に駆け込む。

テントの中はすべてが湿っていて蒸し暑い。体がべとべとしている。わたしは日記を書きながらうとうとする。そのとなりでのらさんが横になり、すぐにいびきをかきはじめた。