その79

明るくなってから起きる。今日は眠れるだけ眠ると決めていたから、いつまでも寝袋のなかでぐずぐずする。テントから出ると、ここにテントを張っていたまわりの人たちはもういない。テントをたたみ、栄養いっぱいのチョコレート菓子を食べる。川で顔を洗う。

歩く。曇り空。狭いトレイルを跳ね回る、元気な犬を連れたおばさんとすれ違う。手作りのクッキーがたくさん入った袋をくれた。

たくさん眠ったせいか、それとも昨日たくさん食べたせいか、またはその両方のせいかで体のだるさはまったくない。食糧が増えたので荷物は重いが、体が軽くて歩くのが楽しい。

舗装路沿いに座って手作りのクッキーを食べていると、このような時に限ってハイカーが次々とやってくる。皆にクッキーを分ける。

なだらかな斜面に落ち葉が積もり、適度な間隔で木がまっすぐに立っている、気持ちの良い森のなかを歩く。

小屋で休む。小屋のノートにのらさんが「たくさん眠って気分よろし」と書く。わたしは「でっかい眠りをとることは我々の仕事」と書く。

行動食を食べる。塩味たっぷりのひまわりの種とチョコレートとナッツとレーズンを混ぜ合わせたもの、それに干しあんず。

広い芝生にぽつぽつと屋根つきテーブルとベンチがある公園。陽が照っているので寝袋とテント、おとといから濡れたままの靴下をテーブルのうえに並べて乾かす。ストックの取っ手と紐がものすごく臭うので水道の水で洗って乾かす。

薄平パンに落花生バターとチーズを巻いたもの。これはほとんど毎日食べているが、いまだにうまいうまいと感嘆しながら食べる。ふたりとももっちゃりとした白くて生っぽいパンの味が大好きである。とうもろこし粥にアメリカ南部のスパイスで味付けして煮込む。こちらもいちいちうまいうまいと言いながら食べる。粥を煮込むのは楽しい作業だが水とアルコールをたくさん消費する。

蝿でいっぱいの便所で出す。濡れたままだった靴下はぱりぱりに乾いた。「太陽はえらい」とのらさん。ストックは半乾きで臭いまま。

この辺は水場が少ない。たくさんの水道の水を汲み、背負って歩く。急坂が続き、岩場のみちが現れる。それでもやはり、歩くのが楽しい。「山を楽しむには体調が全てだ。食うことと寝ることだ。」

チーズ味のスナック菓子を食べる。手がチーズのオレンジ色でべとべと。

夕方近くになり、静かな森のなかを、ふたり黙々と歩く。わたしのうしろでたびたびぱちっ、ぱちっという音が響く。これはのらさんが目の前を飛び回る虫を叩いて殺そうとしている音。あまり殺せてはいないようである。「音にびっくりして虫がいなくならないか?」「それはないようです」とのらさん。

落ち葉でふかふかしている森のなかにテントを張る。ツナ入りじゃがいもに、今回新しく購入したオリーブ油を垂らす。これは風味とカロリーを増やすため。水を入れるだけでとろろ芋が出来てしまうという「やまいも粉末」というのを持っていたので、これをお湯を入れてしばらく待つだけでできてしまうご飯にかけて食べる。さらにお湯を注ぐだけでできてしまう味噌汁も食べる。ちゃんとした日本の料理が食べたくなった。

落ち葉でいっぱいの森は蝿、蚊、蟻、黒い虫、その他あまり見たことのない形状の虫でいっぱい。服のなかに何かが入り込んでいるようで体がちくちくする。食糧を吊るして歯を磨き、早々にテントの中に引き上げる。