その67

夜中、目覚める。地面からの冷気はないが、テントが風にあおられているせいか寒く、体が冷えている。のらさんににじり寄ってぴったりくっついて眠る。

薄暗いうちに起きる。強い風は止んでいるが肌寒い。服を着込む。テントの中で栄養いっぱいのチョコレート菓子を食べる。

歩く。トレイルから外れたところにある森林警備員の施設でポンプの水を汲む。「肝臓が弱っている時は水をたくさん飲めって昔言われた気がする」とのらさんが言う。「内臓に澱のように溜まっている砂糖を水で洗い流すというイメージだな」とわたしは言って水をがぶがぶ飲む。

トレイルに戻る舗装路には甘い匂いが漂う。「家の近所にあるくちなしの花と同じ匂い」とのらさん。

歩いていると何となく平衡感覚がないというか、ふらふら、ふわふわした感覚があって歩きにくい。このところ朝方はいつもそうで、ふたりとも同じ。水を飲み足りないのか睡眠が足りないのか、朝食べる栄養いっぱいの菓子の量が多すぎるのかそれとも少なすぎるのか、ただ単に疲れがたまりすぎているだけなのか、分からない。のらさんはふらふらしている時はどういう訳か左に寄っていくと言う。

歩く。後ろを振り返るとのらさんはスイートアンの茎をかじりながら歩いている。舗装路沿いの草むらで腰を降ろす。豆と種と干し果物を味わいながら食べる。種はひまわりとかぼちゃの種。干し果物はマンゴーとパパイヤのようなもの。

山の斜面の岩場。落ち葉をどかして腰を降ろし、とうもろこし粥をつくる。今までのは味の付いた即席のもの、今回のは生のもの。少しずつ水を足しながら、とろとろと煮込む。スパイスとチーズで味付け。わたしは白いパン、のらさんはまずい薄平パンに落花生バターを塗って食べる。サッサフラス茶を飲む。地面があまりに斜面すぎて落ち着かない。

またしばらく歩いて森の木陰の、平らな場所で休む。穴を掘って出す。出し切らないうちに蠅がぶんぶんと寄ってくる。のらさんは地面にマットを敷いて横になって眠る。のらさんが起き、交代してわたしも横になって眠る。蟻が服の中を歩いていてわたしの肌を噛む。のらさんも穴を掘って出す。「閉め切られてる便所は汚いし、便所で出すとうんこは汚く見える。森で出すと自然の物に見える。観察もできる」

歩く。ひと眠りして体が軽い。

すぐ横でがさがさっと音がした。熊が木にかけ登ってこちらを見る。まだ小さい。3メートルも離れていない。じっとこちらを見ていて、わたしが少し動くとびくっとする。子熊と出くわした時はすぐ近くに母熊がいてとても危険という話はよく聞く。ゆっくりとその場を離れる。「昨日の熊は物憂げでだるそうだったけど、今日の子熊はかなり焦ってたな」「あの子熊、後で母ちゃんに凄い怒られるよ」

森の木陰の気持ちよさそうなところ。またマットを敷き、靴を脱いで休む。爽やかな風が吹く。干し果物と豆と種をぽりぽり。りすの気分。今日は休んでばかりいてピクニックの気分。「まあ毎日がピクニックなんだけど」「歩き終わってからもずっと森のなかで過ごしたいなあ」

トレイルから少し離れた、もう使われていない小屋の脇にあるパイプから流れ出る水を汲む。草むらのなかの平らな場所にテントを張る。無数の小さな虫が飛び交っている。

鶏だし味のらーめんに高野豆腐と大量の落花生バターを入れて食べる。担々麺の味。余った汁に米とミンチ豚肉を入れて温めて食べる。わたしは極力砂糖を控えているから、他のものでカロリーを摂る。落花生バター頼み。サッサフラス茶を飲む。

日が沈みはじめて涼しくなる。しかし虫が飛び交っているのは変わらない。早々にテントのなかに入る。