その51

明るくなり始めた頃に起きる。バナナナッツ味の麦粥と栄養いっぱいのお菓子を食べる。わたしたちが食べている間に、古株さんは出発する(古株さんは朝しばらく歩いてから、朝食をとる)。

牛の糞を注意深く避け、穴を掘って出す。とぐろを巻く。

三頭の仔牛がすぐ近くまで来て、わたしたちがテントを片付ける様子を眺めている。そこを通りたいんだけど、という顔をしている。牛の通りみちにテントを張ってしまった。

歩き出す。のらさんが、先っぽが割れている赤くて細い花びらを持った花を見つける。「これ蛇の舌に似ているっていう花だよ」山では珍しいくっきりと鮮やかな赤色。「ちょっと目覚ましになったかな」わたしはこのところ寝不足ぎみで、朝はぼんやりとしている。

後ろでぐううという大きな音がしたので振り向くと、のらさんが「お腹が鳴った」と言う。わたしは動物かなにかだと思ったのだ。「お腹が正常に働いているな。いいことだ」

ところで、わたしは普段お腹が弱くすぐ壊れるのだが、このトレイルに来てからほとんど壊れていない。寒い夜を過ごしても、食い物が食い足りなくても、食い過ぎても、ビールと牛乳と野菜ジュースをいちどにたくさん摂取しても、お腹は静かに働き続けている。「毎日これだけ歩いて過ごすのは普通じゃない生活だと思っていたけど、これくらい体が動いていた方がお腹にとっては働きやすいのかもしれない」とわたしは言う。

水を汲み、小屋に立ち寄り、薄平パンに落花生バターを塗って食べる。古株さんがサッサフラスの根の皮を剥いている。ファンガイ君が穴の空いた靴を補修している。寿司酢さんがとなりでわたしたちとほとんど全く同じものを食べている。若くて陽気なグランマ君が裸足で歩きまわっている。

登り坂。昨日ほどの日照りも湿気もないが、汗が噴き出す。「登り坂がキツいことに加えて、これからは暑さとの闘いにもなるんだな」わたしはいつも1時間もしないうちに小便に行きたくなるのだが、今日はぜんぜんもよおさない。ぜんぶ体じゅうから出てしまっている。

すたすた歩く。岩だらけでもなく、ぬかるんでもいない山みちはほとんど舗装路のよう。しかし、わたしはスタミナが切れかかっていて、すぐに休憩をしたがる。手持ちの水を全部飲んでしまう。

うしろから凄い勢いで2人の若い女性ハイカーが降りてきた。「降りたところで凄いパーティをやってるらしいよ!」と言って駆け抜けていく。しばらく下ると肉を焼く匂いが漂ってくる。

山を下りきったところにある舗装路の近くで、中年の夫婦が料理を振る舞ってくれていた。バーガー、ご飯、豆のソース。クッキー、マシュマロ、ジュースとビール。昼間会ったハイカーがみんなここにいる。

わたしたちは先に進む予定だったが、食べ物を食べ、疲れきった体を休めているうちにずるずると時間が経ち、同じく進むか泊まるか決めかねていたハイカーたちが次々とテントを立て始め、わたしたちもここに泊まることに決める。のらさんは牛の糞で汚れた靴を洗い、わたしはビールを飲みながらハイカーたちの話に耳を傾ける。古株さんが大きな焚き火をつくる。日が沈んであたりが暗くなってから皆それぞれのテントに戻っていった。