その42

目覚まし時計の音で起きる。胃がむかむかする。「昨日の最後のアイスと揚げとうもろこしは余分だった」と言いつつバナナ、トマト、昨日より砂糖がついていないシナモン味のパンを食べる。牛乳を飲む。

膨れ上がった食糧袋でザックの中に荷物が入りきらない。テントを取り出し、ザックの外にくくりつける。荷物はこれまでのなかで圧倒的に重い。

迎えのバスに乗る。車窓から町を眺め、トレイルの入り口で降りる。

歩き始める。町から山に戻って爽快な気分、軽快な歩き。ザックのベルトが肩にくい込む。

昨日見つけて買った、煎った大豆をぽりぽり食べる。「大豆はたんぱく質たっぷりだし、腐らないし、煎ればそのまま食えるし、肉やチーズが要らなくなる。これからは大豆をどんどん買おう。家に帰ったら小麦のほかに大豆も育てよう」「夏に収穫して乾燥させて山に登る時に持っていけばいい。冬になったら余ったのを味噌造りに使おう」
休憩し、ドーナツを食べる。

道は草原を抜け、小さい川を渡り、森に入る。雨上がりのむんむんとしたなかで、生臭い草の匂いを嗅ぐ。しゃくなげの花が咲いている。木と木のあいだの遠くに赤い屋根の家が点々と見え、草原には黒い牛が見える。牧歌的な雰囲気。

小さくて古い校舎。扉を開けて中に入ると、そこはひとクラスぶんだけの教室で、古い机と椅子があり、黒板には「ここは1894年に作られて1937年まで使われた」と書かれている。

教室内にお菓子やジュース、日用品が置かれていてご自由にどうぞと書いてある。わたしたちはジュースとクッキーと生のセロリ、濡れティッシュペーパーを頂いて寄付のお金を置いた。

草原を過ぎ、森を抜けると車が凄いスピードで通り過ぎている車道に出る。その向こう側にはおおきな高速道路があって車が轟々と音を立てて走っている。車道沿いにはガソリンスタンドと食料品店、そのはす向かいにはレストラン。わたしたちは昨日たらふく食べ、今日は持ちきれないほどの食料があるからは用はない。ないのだが、これらの建物を見ると反射的に浮き浮きする。のらさんは「なるべく建物のほうは見ないようにする」と手で顔を覆って通り過ぎる。わたしは「ぽつんとスタンドやドライブインがある風景がなんともたまらん」と言って写真を撮る。

山みちに戻り、小川で水を汲む。急な登りを越えたところで、木っ端や葉っぱをどかしてテントを張る。動物の糞か、何かが腐ったあとで臭うので、離れた場所にテントを張り直す。

鶏肉味のご飯に乾燥トマトと揚げ玉ねぎを混ぜたもの、ツナ入りじゃがいも、サラミとチーズとセロリと煎り大豆、ナッツとチョコレートと何かの種を混ぜたもの。大麦若葉汁とコーヒー。「贅沢のしすぎだ」とわたし。

寝袋のなかで志ん生、うなぎの幇間。あまり遠くないところで列車が汽笛を鳴らしながら、ごとごととゆっくり通り過ぎる音を聞く。