その175

夜中、目覚める。想いにふける。黄金餅、後生うなぎを聴く。明け方、目覚める。のらさんとわたしの間に冷たい空気がある。のらさんにくっつこうとするとマットのすき間に落ちる。

目覚ましで起きる。テントのなかで、食パンに落花生バターをぬったものとチーズを食べる。のらさんは便所で出し、わたしは穴を掘って出す(暗闇で便所への道が見つけられなかった)。テントをたたみ、荷物を適当に詰め、出発。パンケーキさんはまだ眠っている。

レンジャー小屋に行く。ここで日帰り用のザックが借りられる。持って行く荷物と置いていく荷物を詰めかえる。登山口のレジスターで名前を書く。ダウンジャケット、その上にカッパを着たままの状態。川沿いの、森のなかのゆるやかな登り。空はすでに明るい。徐々に木が低くなり、石が多くなり、石の大きさが大きくなってくる。岩をつかみ、足をかけ、よじ登る。岩に鉄骨が打ち込んであって、それを使いながら登る。どこまでも続く平たい森、それとは対照的な厳しい表情の山を望む。ドーナツ、行動食を食べる。手が冷えて動かしずらく、食べにくい。体はあつくなって、カッパとダウンジャケットを脱ぐ。木はなくなり、はるか高いところまで大きな岩がごろごろと積みかさなっているのが見える。岩の間に体をねじ込み、よじ登り、進む。

岩を登りきると、なだらかな稜線の道に出る。だだっ広く、荒涼とした風景。おそらく山頂と思われるところが遠くに見える。強い風が吹く。さえぎる木々はなく、風が体を冷やす。ウィンドジャケットを着て、そのあとにダウンジャケットも着る。風が目に入ってだんだんと痛くなり、やがてあけられなくなる。

山頂が近づいてくる。辿り着く。半年のあいだ歩き続けた道の終わり、という実感はなく、ただ山頂に着いたな、という気持ち。

山頂であることと、トレイルの終わり、もしくは始まりを示す看板に足をかけてふたり並んで立ち、写真にうつる。先に着いていたキャンディバーさん親子が写真を撮ってくれる。やがてパンケーキさんが着き、左利きさんが着く。風がごうごうと吹き荒れていて、寒くてたまらない。ダウンアンダーさんが着くのを待つ。しかしやってこない。クラッカーと行動食を食べる。

キャプテンプラネット君が山頂まで駆け上ってきて、看板の前にうずくまる。ダウンアンダーさんがやってくる。吠えるような表情。皆で集まって写真を撮る。

下りはじめる。下からカブースさんとブードゥーさん、バルー君、ポーターとシェルパさん、万華鏡さん、大鳥さんたちがやってくる。声を掛け合い、別れる。

途中から、登った道とは違う道を行く。岩が積み重なっているのはおなじだが、登りの時よりは小ぶりの岩。岩を下りつづけて、ふたりとも膝が痛くなる。しばらく続いた岩の道を抜けると土の道。この道は新しくつくられたばかり。土はふかふかでまだあまり踏まれていない。途中何箇所か、若者たちがトレイル造りの作業をしているところに出くわす。

やがて森のなかに入り、傾斜はなだらかになる。キャンプ場に出て、砂利道にでる。砂利道歩きがいつまでも続き、道があっているのかもよく分からず、わたしたちはいらいらして落ち着かない。

登山口に出る。レンジャー小屋で荷物の詰めかえる。芝生でテントを干す。食べ物を振舞っている人からサンドイッチをもらって食べる。町まで降りる送迎の車を待つ。乗り込む。走り出す。車のなかに風が吹き込んできて寒い。開いていた窓をしめると心地良くなり、うとうととする。