その69

昨日は遅くまで歩いたので、明るくなるまでぐっすりと眠る。
起きる。胃がもたれている。テントをたたんで歩きはじめる。他のテントの人たちはまだ眠っている。

ふたりとも足の疲れがとれておらず、体もだるい。ゆっくり、ゆっくりとした足取りで歩く。岩ばかりの山の斜面で穴を掘って出す。栄養いっぱいのチョコレート菓子を食べる。公園のように整備されたキャンプ場に出て、水道の蛇口から水を汲む。

車道沿いの駐車場に出て、そこからトレイルがどこに続いているか分からず行ったり来たり。のらさんが、車道を横切る熊を写真におさめる。

トレイルの両脇の草が刈られている。トレイルからせり出している葉っぱや枝まできれいに剪定されていて、整備された庭園のなかを歩いているよう。保護めがねをかけたおじさんが電動の草刈り機を振り回している。

トレイル沿いの小屋があったので休憩。
どこの小屋にも、ハイカーが自由に情報や感想などを書き込めるノートが置いてある。わたしたちも立ち寄った時には名前を書き残すようにしていたが、これからはこれにちょっとした一言も書き添えることにした。英作文の勉強。「熊たちはみんな物憂げな表情をしています。わたしたちには興味がないようです」と書く。

岩でごつごつとしたくだり道、舗装路、緑の濃い森のなだらかな坂道を登り返す。木がうっそうと茂り、倒木ばかりで殺伐とした雰囲気のところで休憩。薄平パンに落花生バター。とうもろこし粥を煮込み、塩とゆかりで味付け。梅粥の味。のらさんは英単語の勉強、しばらくしてうとうとする。のらさんは勉強を始めるとすぐに眠くなる人。

空は曇り空で遠くの景色は霞んでいる。ほんの少しだけ、ぱらぱらと雨が降り、そのあとに陽が出る。久しぶりに湿気が多くじっとりと汗をかく。汗をかくと腕にできているぼつぼつのところが痒い。

トレイルの両脇の草むらでがさがさっと音がしてりすが走りまわる。わたしが近づくと草むらを駆け抜けて木の陰に隠れる。たまに顔を出してこちらを伺う。木と木を器用に飛び移って逃げていく。この森はりすの森。「りすの尻尾は弱いから掴んではいけません」とのらさんが言う。

ちょろちょろと流れる沢の水を汲む。

車道沿いにある売店。持ち帰りの軽食コーナーで牛肉のハンバーガー、七面鳥肉と野菜を薄平パンで巻いたものを買う。素材を冷蔵庫から取り出して、そのまま乗せたり巻いたりしただけという感じの、冷たい料理。ゆで卵、揚げとうもろこしのスナック。牛乳を飲む。

坂道を登る。山の中は草が生い茂っていて暗い。霧が出はじめる。坂の途中の草がないところにバンダナ君がテントを張っていた。となりに張らせてもらう。

バンダナ君は歩くスピードが速い。というよりはわたしたちがかなり遅い(そのかわりに長い時間をかけて歩く)。たまにバンダナ君が後ろから追いついてきて抜かれると、あっという間に見えなくなってしまう。「マラソンのような感覚で歩いてます」とバンダナ君。

すぐ近くの木から鹿が顔を出し、トレイルをゆっくり歩いていく。

傾斜がひどく、テントのなかでは着替えたり座ったりするのにも踏ん張りをきかせる必要がある。寝袋に入ってもずるずると滑っていく。