その109

明け方に起きる。テントをたたむ。栄養いっぱいのチョコレート菓子を食べる。川で顔を洗う。

少し歩いてから、穴を掘って出す。大量。のらさんも出す。これも大量。「ナッツの効果はでかい」とのらさん。

ざあざあと水が流れる音を聞く。河原で靴を脱ぎ、裸足になって川に入る。川底は浅く、小さな砂利が詰まっていて裸足で歩くと足つぼが刺激されて心地よい。川の中から頭を出している石に座り、しばらく足を浸ける。ティーシャツを脱ぎ、手ぬぐいで体を拭く。あめんぼがわたしの足下で動き回っているので帽子ですくい取ろうとするが取れない。めだかほどの大きさの魚がたくさん泳ぎ回っているのでこれもすくい取ろうとするが取れない。小さなえびのような、ざりがにのような生き物も取れない。

車道を越え、川沿いの広い砂利道を歩く。時々車が砂埃を巻き上げて通り過ぎていく。
トレイルを示す目印を見なくなって久しいなと思いつつ歩き続け、だいぶ歩いてから道を間違えていたことに気づく。かなりの距離を引き返さなくてはならない。あまりにもがっかりしたので、のらさんがクレイジーケンバンドの音楽をスマートフォンで流す。しばらく戻ってからトレイルを見つけ、そこに座り込んでジェームズ・ブラウンを流し、気合いを入れ直す。

急な登り。炎天下で辛さは倍。息が切れ、足がうまく上がらない。速度を落とさずに登る。額から流れる汗が目のなかに入り、髪の毛から垂れる汗が眼鏡を濡らす。

登りきったところで休憩する。薄平パンでチーズと落花生バターを巻いたものを食べ、さらに薄平パンで落花生バターを巻いたものを食べる。水をたくさん飲む。さらにビタミン粉末を水に溶かして飲む。

歩く。軽くふらふらしている。足が重い。ちょっとの登り坂でも足を上げるのがきつい。「熱中症か?水はたくさん飲んでるんだが」と言うと、「この暑さのなかを歩いていること自体が異常」とのらさん言う。たびたび立ち止まって休みながら、ゆっくりと歩く。

沢の水が干上がっているところで座って休む。のらさんが服の下にハッカ油をかけて爽快な顔をしている。わたしもやる。胸に振りかけてしばらくすると涼しくなり、やがて涼しいを通り越して体がかあっ、としてきて熱いような痛いような感じ。気持ちが良いので背中や首にも振りかける。ここ最近でハッカ油が大好きになった。筋肉痛、関節痛、虫刺され、すり傷、体を冷やす等、何でもこれを使う。

ハッカ油で体が冷えていく感覚を楽しんでいると、急にもくもくと曇ってきて、やがて雨が降りはじめる。久しぶりの雨。右手で傘をさし、左手で杖を持ち、足下をみながらゆっくりゆっくり歩く。のらさんが温度計をみて、「気温が一気に10度下がったよ」と言う。わたしは気温の変化のせいなのか、それともハッカ油が体の何かに作用したせいなのか、汗が滝のように流れはじめ、傘をさしていてもずぶ濡れ。

登り坂になり、岩のごつごつした道になる。それでもふたりとも傘をさしたまま、ゆっくりと進む。まだ雨が止まないうちに日が射してきて空が明るくなる。やがて雨がやむ。

小屋のすぐ側にあるテント場に着く。小屋からいちばん離れた高いところにテントを張る。沢の水を汲み、体を拭く。ウインドジャケットを着て、首や顔に虫除け剤を塗る。大量の蚊が舞い飛んでいる。のらさんは蚊よけネットをかぶる。

バンダナ君がやって来る。彼に会うのは1ヶ月ぶり。ごはんを作っている最中に雨が降り始める。傘を差す。ミンチ豚肉入りじゃがいも、ハーブ風味のごはんを食べる。蚊が火のまわりに集まり、傘の下に入ってきて顔のそばを飛ぶ。

テントの中で雨宿り。のらさんがテントの中の蚊を殺しまくる。殺した蚊はわたしが受け取って外に出す。体や服、何もかもがべとべとしている。のらさんが「テントのなかは更衣室の臭いだ」と言う。やがて雨がやんで空が黄色くなった。横になってバラカンさんのラジオ番組を聴く。