その98

夜中、たびたび目覚める。そのたびに猛烈に小便に行きたくなっている。その都度テントから這い出す。一時間にいっぺんくらいの間隔。一旦起きると眠れなくなるので志ん生。品川心中、居残り佐平次、替り目、火焔太鼓黄金餅、つるつる、庚申待。

明るくなる頃に起きる。熱を計ると三十八度五分。今日は丸一日テントの中で眠って過ごすことに決める。

昨日頭痛で寝ていた若者ハイカーは、今日になっても頭痛と寒気、汗が止まらないとのこと。彼はしょっちゅうダニに噛まれていたというので、ダニの病気に感染しているかもしれないから病院まで行くと言って出発する。

シナモン味の麦粥に栄養いっぱいの白い粉を入れて食べる。ハイカーが次々と出発するのを見送る。わたしは空気がこもって蒸し暑いテントの中で、持っているほとんどぜんぶの服を着込んだまま横になる。体は高熱を発して元どおりにしようと闘っている最中だから、いま薬を飲むのはやめ、ただ眠る。目覚めてから、横になったまま英語の勉強をする。

燃料用のアルコールが残り少ない。のらさんが山のふもとまで買いに行くことにする。しばらくすると帰ってきて、以前何度かすれ違っているアーカンソーさんとばったり会い、彼女がアルコールをただでくれたと言う。彼女は「このアルコールは何となく買ったんだけど、きっとあなたにあげるために買ったのね」と言ったという。

テント場にたくさんの青少年と引率の大人がやってきた。昼食を食べるにぎやかな声をテントの中で聞く。昼食の後、一人ずつ同じ節回しに即興の歌詞をつけて歌い、節のあいだにみんなで合いの手を入れる、というのをしばらくの間行っている。

外に出て倒木に座る。薄平パンでチーズと落花生バターを巻いたもの、栄養いっぱいのチョコレート菓子を食べる。テントに戻って横になる。眠る。のらさんも横になり、眠る。のらさんはティーシャツ一枚。わたしは長袖シャツ、ウインドシャツ、カッパを着て寝袋に入っている。

突然曇って大粒の雨。雨の音でラジオが聴こえなくなる。激しい雷の音で耳が潰れそうになる。二人ともしばらく顔が引きつったまま。テントの下に水が流れ込んで溜まり、テントの底の生地を触ると水でぶよぶよしている。しばらくして晴れ渡った青空になる。

ひじき、粉末しょうが、粉末にんにく入り鶏肉だしのらーめん、残り汁にご飯とミンチ豚肉を入れて食べる。粉末にんにくをたくさん入れたのでにんにく臭が漂う。のらさんが全部作ってくれてわたしはただ食べるだけである。明日は歩きたいから解熱剤を飲む。「最近、化学繊維のティーシャツに変えてからよく濡れたまま着ていた。体を冷やしすぎたのかもしれない。これが発熱の原因かもしれない。おれは冷えに弱いからなあ。ウールは濡れても体を冷やさない。ウールのティーシャツの方がおれに合っているかもしれない」という話をする。

食糧袋を木にぶら下げるために久しぶりに外に出る。涼む。蚊がまとわりついてくる。ふだん蚊はのらさんの血を好むので、わたしはあまり刺されない。しかし今はわたしの体が熱いせいか、たくさんの箇所を刺される。テントの中に引き揚げ、まだ明るいうちに横になる。