その82

夜中、何度も目覚める。目覚めてはぼりぼりと体じゅうを掻き、志ん生をかけ、眠り、また目覚めてはぼりぼりと掻く。

明るくなった頃に目覚める。服や寝袋、それからわたしたち自身、何もかもがじっとりと濡れてべとべとしている。

テントをたたむ。栄養いっぱいのチョコレート菓子を食べる。昨日小さなサンタ君にもらったチョコレート菓子を食べる。これは砂糖と塩のかたまりのような食べ物。ふたりとも穴を掘って出す。快便で大量。「山で便秘にもならずに快便なのは、ナッツをたくさん食べてるから」とのらさん。

歩く。おおきな岩のすきまに体を挟み込み、抜け、這い上がって進む。

森全体がじっとりと水気を含んでいて地面が臭っているようである。「わたしたちが臭いのか土が臭いのか、どっちかわからない」

森を抜け出ると、辺りいちめんに広大な畑が広がっているところに出る。肥料の匂いなのかどこかにけものがいるのか、うんこの臭いが立ち込めている。とうもろこし畑、大麦か小麦の畑、次に何かを植えられるのを待っている草むら。とうもろこしか麦の加工工場、住宅、電信柱。青空、遠くの舗装路を音もなく走る車。

広大な大地の端っこにテント場があったのでテントを張る。ここは小さな町の端っこでもある。今日は半日、小さな町で体を休めるつもり。

荷物をおいて町を歩く。プールで賑やかに遊ぶ子供たち、町の真ん中にある人口池に浮かぶ鴨。池のほとりにあるトレイル管理団体の建物に寄り燃料用のアルコールをもらう。

カフェに入り、のらさんはアボカドとベーコンと七面鳥肉のサンドイッチとチャイラテ、私は野菜と七面鳥肉のライ麦パンのサンドイッチとコーヒーを頼む。わたしたちは体が臭くてべたべたなので長い間シャワーと洗濯をしたくて堪らなかったが、冷房の効いたカフェのなかで体も服もからっと乾いて久しぶりにさっぱりとした気分。わたしはコーヒーをおかわりして店内で日記を書き、のらさんは町を散歩しに出かける。のらさんが戻ってくると空がもくもくと曇って土砂降りの雨が降る。雨が止んで陽が差したところで店を出て、山道具屋に立ち寄る。ハイカーが何人かいて、明日から岩場のみちを歩くというので皆不安げな表情をしている。ガソリンスタンドにくっついている食料品店で買い物をし、町の真ん中を流れる小さな川に足をつける。川の水は冷たく、足を乾かしては浸し、乾かしては浸す。

また空がもくもくと曇って雨が降り、木の下で傘をさして止むのを待つ。町はずれにあるプールまで戻り温かいシャワーを浴びてさらにさっぱりとし、汚れたままの服を着る。

雨宿りしている時にのらさんの座布団をどこかに落としてしまったのでそれを拾いに来た道を戻り、公園の芝生の上に落ちていた座布団を拾い、トレイル管理団体の建物の軒先にあるブランコに揺られながらビスケットと薄揚げとうもろこしとチーズ味のスナック菓子が混ざったもの、薄揚げじゃがいも、落花生バターが挟まったクラッカー、それから昨日食べるのをこらえたチェリーとチーズのあまあまパンを食べる。そのままの格好で、夕暮れのなか子連れや犬連れでぶらぶら散歩する人たちや芝生で体を鍛える人を眺めつつ日記を書く。足の力を抜いてブランコに揺られつづける心地よさを知る。

テント場に戻るとたくさんの蛍が飛んでいてお尻を光らせている。テント場のすぐ隣を貨物列車が汽笛を鳴らしながら駆け抜けていった。

寝袋に入るが、昼間コーヒーをたくさん飲んだせいか目が冴えている。夜もだいぶ更けたころに誰かがやって来てわたしたちのすぐ隣にテントを張り、日付が変わる頃までがさがさと音を立てている。警察の車両か救急車のサイレンが時おり鳴り響き、一時間にいっぺんくらいの割合で貨物列車の轟音が響く。轟音はわたしの胃と脳みそを揺らし、一旦鳴り始めると簡単には終わらない。志ん生を流し、そのあとバラカンさんのラジオ番組を聴き続ける。