その78

暗いうちに起きる。ふたりともまだ眠りたいのを我慢して寝袋から出る。雨が降っているがテントをたたむ前に止む。昨日洗った靴下は乾いていない。絞ったら水が垂れるほど。そのまま履く。

甘い麦粥と、昨日金網に突き刺さっていたチョコレート菓子を食べる。

歩きはじめる。雨が降り出してカッパを着る。岩ばかりが積み重なっている道。岩の凹凸を足の裏で感じつつ、岩を伝いながら歩く。雨が止んでカッパを脱ぐ。穴を掘って出す。お尻を拭いていると、人の声がする。近づいてくるのが見える。すぐ近くがトレイルだった。あわてて立ち上がる。

朝方は体がだるく、歩いているうちに調子を取り戻すのが普通、しかし今日はいつまで経ってもだるいまま。

とうもろこし粥を塩とゆかりで味付け、水を少しずつ足しながらとろとろ煮込む。鍋の底が焦げて香ばしい匂い。おこげがおいしい。薄平パンに落花生バター。容器に残っている落花生バターをそのまま舐める。
食べ終わったあと座っていると眠くてそのまま眠ってしまいそうである。のらさんも眠たくて仕方がないと言う。「明日の朝は眠りたいだけ眠ろう。ふたりともが満足するまで寝て、それから出発しよう」

歩いていてもとにかく眠たい、だるい。しりとりをして気を紛らせることにする。しかしまた道が岩ばかりになってきてどっちにも意識が集中できない。道は間違えるし、しりとりの言葉は出てこないし、どっちつかずの状態。

道はとうとう見渡す限りの岩場になって、どこが道なのか分からないほど。歩きづらいうえに、立ち止まってきょろきょろと道標を探すから、一向にペースが上がらない。

舗装路に出る。ここから食糧補給のために町に下りるつもり。舗装路は狭く曲がりくねった坂道で、車を捕まえるのは難しそうなので歩いていくことにする。きれいに整えられた芝生と、こじんまりとした家を眺めながら歩く。点々とあった家が増えてきて、まちが近づいてきたことが分かる。車がたくさん行き交う広い車道まで辿り着いたところで、おばさんが運転する乗用車が止まりスーパーマーケットまで乗せてくれると言う。車に乗っていたのはわずか5分くらい、わたしたちはくたくたに疲れていたのでとても感謝する。

スーパーマーケットの入り口で降ろしてもらうと、そこに大きな箱型自動車がとまっておりいかついおじさんがふたりいて、彼らは善意でハイカーの送迎をしているのだと言った。わたしたちが買い物をして食堂で食事をし終わる頃にまた来てトレイルの入り口まで送ってくれると言う。

大きなスーパーマーケットで四日分の食糧を買う。となりにある中華料理の食堂で食事。ここは決まった料金でいくらでも食べて良い店。肉と魚と野菜をたくさん食べ、お腹がぱんぱんになる一歩手前で食べるのを止める。甘いケーキとアイスクリームも食べる。「スーパーマーケットにくっついているような味気ない店はもう飽きた。もっと地元の人が通うダイナーみたいなところに行きたい」

店の前で待っているとぴったり時間通りに箱型自動車が来る。車が動きだしてから、おしさんがおもむろにこちらを向いて、どうして歩いているのか?とわたしに質問する。彼は三年前このトレイルを通しで歩き、今はハイカーの手助けをしていると言う。

トレイルの入り口で降ろしてもらう。通りかかったハイカーからブラックラズベリーの実をもらう。小さなたくさんの黒いつぶつぶがくっついている実で、受け取ると手が真っ赤になった。食べると甘くも酸っぱくもないが確かにラズベリーの味。よく見ると道沿いにぽつぽつ実がなっていて地元の人と思しき人が摘みとっている。のらさんもいくつか摘んで口に運ぶ。

谷あいを流れる川のそばでキャンプをする。テントを張る場所を決め、その後によくよく見ると、まわりの木のそばがちり紙だらけ。ここはハイカーが用を足す糞場。ちり紙はうんこと一緒に土の中に埋める決まりになっているが至る所で目に入るから、この決まりはあまり守られていない(わたしたちは使用済みのちり紙も持ち歩いて、町のごみ箱に捨てる)。

場所を移動し、濡れたままのテントを乾かしてから立てる。臭っている靴下と杖を川で洗う。水を汲む。水の入ったペットボトルが川に落ち、どんどん流れていってしまうのでじゃぶじゃぶ追いかける。外してあったキャップが流れていってしまった。山の中にごみを残したことになるから、がっかり。

洗った靴下をしばらく木にぶら下げて干す。臭いはとれない。緑茶を飲む。川が流れる音を聴きながら寝る。