その72

薄暗いうちに目覚める。久しぶりのベッドなのでもっと寝ていたい。しかし眠れそうにないので起きる。バンダナ君は大きないびをかいている。

のらさんも目覚めていて、一緒に宿の食堂に行く。部屋の外は涼しい。ワッフル、卵焼き、ベーコン、麦粥、ヨーグルト。小麦粉で出来た食べ物は少しだけ、たんぱく質のものをたくさん食べる。オレンジ汁に牛乳を混ぜて飲む。コーヒーを飲む。何人かの顔見知りのハイカーたちと会う。一週間ほど川下りを楽しんできたと言う。彼らはわたしたちより歩くスピードが早い。

風呂桶に湯を張り、のらさんと並んで座って足を浸ける。足から疲れがとけ出でよと念じる。しばらくの間そのままの格好でいて、それからまた食堂に戻ってワッフルと卵焼きとベーコン、レモンとポピーシードが入ったカップケーキ、ヨーグルト。小麦粉は少しだけ、たんぱく質をたくさん。オレンジ汁に牛乳を混ぜる。コーヒーを飲む。

テレビを眺める。フォーミュラ車のレースの中継。両脇が壁になっている細くて曲がりくねった舗装路を、もの凄い速さで走り抜ける。何台かの車が壁にぶつかった。

昨日の晩に残したハム、葉っぱ、チーズ、豆ごはんを食べる。たっぷりの牛乳と野菜汁を飲む。

出発の準備。準備を終えたバンダナ君はベッドで静かに横になっている。少しでも体を休めたい。

宿を出る。車道沿いの広場で行われている蚤の市。家具、工具、おもちゃ、古着、ほとんどがらくたばかりが広場いっぱいにひしめく。たくさんの人出。炎天下のしたで売り主が椅子に座って気だるそうな表情をしている。

つづいて表通りで行われている農産市。こちらは木陰で涼しい風が流れ、野菜や手作りのパン、ジャムが品よく並べられている。店を覗く人はほとんどいない。

昨日のカフェにまた入る。挽いたばかりの豆のコーヒー。冷房ががんがんに効いている。のらさんが先に店を出て、しばらく後にわたしも出る。のらさんは公園のベンチでアイスクリームを食べている。のらさんはアイスクリームを食べたいので、冷房で体を冷やしたくなかったのだ。

バスに乗る。バスは町のなかをゆっくりと走り、町を出るともの凄い速さで走る。

トレイルの入り口に立つ。ゆっくりと歩きはじめる。歩く振動がお腹に響き、穴を掘って出す。お腹がむしむしと痛む。これはコーヒーをたくさん飲んだせい。のらさんは気持ちが悪いという。これもコーヒーをたくさん飲んだせい。

国立公園の森とは違う、それより前に歩いていた山の景色。懐かしい気分。

小さな山を越えて川を渡り、小さな山を越えて線路を渡って高速道路をくぐる。舗装路近くを流れる川で水を汲む。山に戻ってテントを張る。薄平パンで潰しじゃがいもとチーズを巻いて食べる。黒いパン、行動食も食べる。今回の行動食は干しデーツと干しりんごと干しみかん、大豆とナッツとチョコレート。干し果物は噛むほどにおいしい。

ベッドであまり眠っていない。たっぷり寝ようと意気込んで、日が沈んでから寝袋に入る。車が走る音、貨物列車の汽笛の音を聞く。志ん生を聴く。親子酒、替り目。