その71

夜中、目覚める。かんかん、ばちばち、雨がトタンを打つ打楽器のような音。天井からぽたぽたと雨。寝袋はカッパを着ている。

まだ暗いうちにひとりのハイカーが出発の準備をする音を聴く。

起きる。栄養いっぱいのチョコレート菓子。小屋のノートにのらさんが「魚が食べたいです」と書く。わたしは「小屋の中で傘をさして雨宿りをしました」と書く。

準備をして出発。小屋は三面が壁、一面は空いている、しかしやはり中は暗くじめじめとしている。外に出て歩きはじめると突然明るいところに開放された気分。

バンダナ君も加わって三人で歩く。今日はちょっと歩いて、それからすぐに町に降りる予定。バンダナ君と一緒に部屋を借りてお互い宿代を浮かそうという計画。

雨露にぬれたなだらかな森の道を歩く。車道に出る。ちょうどその時に走ってきた車にバンダナ君が手を挙げると、止まる。ひと足先に車道にいたシダさんも一緒に乗り込む。運転手は中年の女性。シダさんと楽しそうに会話している。わたしたちは後部座席でただただ相づちをうつ。

モーテルの前で降ろしてもらう。コインランドリーで洗濯。三人分の洗濯物が一緒くた。汚れ服が回転しているあいだ、カフェでコーヒー。コーヒーは薄味ではなくコクと苦味がある。しかも大きなカップになみなみと入っている。のらさんとバンダナ君はベーコンと卵を挟んだ温かいサンドイッチを食べ、わたしは食べない。店内はレンガ造りの倉庫。自然食品と、地元の人が描いた絵が壁に掛かって売られている。ここは都会。何をするでもなく長居をする。

映画のためにつくられた張りぼてのような色とりどりの建物が並ぶ表通りをぶらぶら歩き、庶民的な食堂に入る。チーズと野菜が入った卵のパイ、肉汁ソースがかかったパンケーキ、とうもろこし粥。バンダナ君は鶏肉の揚げもの、りんごとシナモンのパンケーキ。地元の人が出入りする、飾り気のないところ。

大型のスーパーマーケットで四日分の食糧と今日の晩めしを買う。

宿に入る。順番にシャワーを浴びて汚れを落とす。落ちないところは落ちない。手と足の指の爪を切る。寝袋や濡れているものを干す。食糧袋は防水のはずだが中の食糧までびっしょり。

わたしは部屋で日記を更新する作業、のらさんは散歩に出かける。帰ってきて、外で何人かの顔なじみのハイカーと顔をあわせてドーナツを食べて表通りを歩いてそれからまた別のスーパーマーケットをぶらぶらしたと言った。

部屋で食事。粗挽きウインナー、ハム、ミートソース、潰しアボカド、白くて塩辛いフェタチーズ、ほうれん草やケールの葉っぱ、味付けされた豆ごはんを薄平パンで、手巻き寿司の要領で巻いて食べる。のらさんとバンダナ君はビールを、わたしは野菜汁を飲む。三人ともすぐにお腹がいっぱい。

食べ終わったあと、三人が順番に便所にこもる。便所の壁は薄いから、こもる前にそれぞれのスマートフォンで音楽をかける。わたしはジェームス・ブラウン、のらさんはインド音楽、バンダナ君はレベッカ

浴槽に湯を張り、そこにラベンダーの油を垂らし、体を浸ける。ふくらはぎと足首と足裏を揉みこむ。汗が流れ出る。
わたしは椅子に座ってテーブルに向かう。のらさんはベッドでうつ伏せの格好。バンダナ君はベランダで風にあたる。