その64

明るくなってから起きる。芝生の上で麦粥、チーズを挟んだクラッカー。

町を歩く。繁華街は空き店舗が多く、閑散としている。小綺麗なギャラリーがいくつか。繁華街の外れのコインランドリーに行く。洗濯機をまわしている間、のらさんは食糧品店に、わたしは金物店に行く。リチウム電池があるかとわたしは店員に訊くが「リチウム」も「バッテリー」もわたしの発音が全く通じない。

一畳ぶんの大きさの小屋のコーヒー店。甘いバニラ味のラテを買って飲む。のらさんと一杯のラテを分け合って飲んでいると、突然満腹感に襲われる。わたしは何口かしか飲んでない。わたしの胃かもしくは肝臓が、もう砂糖は要らない、と言っている。

テントでしばらくごろごろ、昼食を食べに出かける。
大きな建物の中華料理屋。中にたくさんの料理が用意されていていくらでも食べてよろしいという店。この形式の店には以前に喜び勇んで行って腹に詰め込めるだけ詰め込み、喜んだり苦しんだりした。わたしたちはまだ懲りないのであるが、さすがにもう何度目かともなるとずらりと並ぶ料理を見ても冷静な気分。そのうえ先ほどのラテの件もあるので、わたしは自分に揚げものとデザートの甘いお菓子は食べない、という規則を課す。胃と肝臓に負担をかけたくない。
店内は豪華な内装。鯉が泳ぐ池、それを渡る橋、真ん中には屋台が組まれていて寿司と書いてある。日本の味に近い寿司と焼きそば、肉と野菜の炒め物を食べる。油と砂糖を避け、優しい味付けのものを、ちょっとずつ皿に盛り、よく噛んで食べる。程よくお腹がふくれたところで店を後にする。わたしは自分のスマートさに感動する。
「箸で食べたからゆっくり食べられたんだ。スプーンだとがっつり口にほおばっちゃうから」とのらさん。「おれがスマートなんじゃなくて、箸で食べたのが良かったのか。箸で食べるというのはすばらしい文化だ」

図書館に行く。なかはきれいで、公共の建物のかび臭さがない。ゆったりとくつろげるソファがあり、コーヒーも飲める。パソコンも使い放題、ゲームをしている人がたくさん。本を読んでいる人はあまりいない、しかし室内は本の匂いでいっぱい。紙の匂いはどこに行っても共通である。
無線LANも自由に使える。スマートフォンでメールを確認、日記を更新する作業をする。

大型のスーパーマーケット。今日の夜食べるもの、明日からの食糧の買い出し。

テントに戻り、とうもろこしチップス、味付きの潰しアボカドと卵サラダとヨーグルト。芝生の上に座って風に吹かれながら食べる。ビールを飲む。のらさんはさらにテキーラをオレンジ汁に混ぜて飲む。食べ物の量を控えめにしたので小さな缶ビールくらいなら飲んでもいいだろうと思ったのだが、これがまた失敗。この小さな缶ビールでお腹がぱんぱんに膨れ上がる。わたしの胃かもしくは肝臓が、体に良くないものはもはやこれ以上断固として受け付けぬ、と言っている。「あなたのお腹が正しい」とのらさん。「わたしはわたしのお腹に従います」とわたし。

陽が落ちて暗くなり、辺りには蛍なのか、お尻を光らせる虫がたくさん飛びかっている。木に灯る電飾のよう。「たくさんいすぎだ。蛍にしてはずぶとすぎる」

芝生の上のテントが昨日より増えている。夜が更けても、賑やかな話し声が聞こえる。昨日の夜は涼しく服を重ね着して寝たが、今日は暑い。ふたりとも寝袋からはみ出すようにして寝る。