その55

夜中、目覚める。お腹が張っている。気持ちが悪い。と思ったとたん、胃から逆流したどろっとした酸っぱいもので口の中がいっぱいになる。しばらくどうしようか考え、静かに呑み込む。そのまま眠る。

また目覚める。便所に行って下から出す。大量。お腹がむかむか。ここ最近の暴食ぶりに、お腹が音を上げはじめた。

まどろんでいるうちに朝。ベッドで眠るという貴重な機会に睡眠不足を解消できず、また筋肉が今までにないくらい固まっていて節々も痛い。もう一泊して、今日は休息日にする。
この宿は値段が安く、ベッドは沈みすぎず、2人が向き合って座れる椅子とテーブルがあり、湯を張ったバスタブにゆったりと浸かれる。こんな機会はそうそうない。

この宿は朝食つきということなので、受付のとなりにある食堂に行く。出発の準備を済ませたハイカーたち、二日酔いでだるそうな表情をしているハイカーたち。古株さんがいたので一緒のテーブルに着く。炒り卵、ソーセージ入り小麦粉粥、スコーン、ベーグル、シリアル、コーヒー。古株さんはこれからトレイルに戻るところ。3日後に甥が来て一緒に歩くからペースは遅くなる、その時また会えるだろうと話す。

部屋に戻り、スマートフォンをいじる。日記や写真の整理。辞書や英語学習のアプリを購入。親しい人や顔見知りの人が増えるにつれ、やっと英語を勉強する気になっている。

工作の時間。アルミテープを使って、チタン鍋を火にかける際に使う鍋敷きをつくる(チタン鍋は焦げ付くから)。つぎにビール缶を切り抜いて、アルコールストーブの火力調節器をつくる。(炎の穴をいくつか塞げば火力が抑えられる。用途によって、24穴と12穴とで使い分けられるようにする)。

洗面所で試す。アルコールストーブの火力の具合は上々。鍋敷きを火の上に置いたら、燃え上がった。アルミテープの粘着部分に火がついたのだ。水をぶっかける。洗面所は水びたし。

昼食の時間。昨日初めて買った、白米を試す。お湯に米を入れて5分待てば食べられるというもの。ティラピアの煮付けをのせて食べる。白米は洗剤の味、ティラピアは鯖缶の味。水の量を変えて白米を作り直すと洗剤の味は薄くなった。

のらさんは買い物に行き、わたしは部屋に残って今までの日記を読み直し、書き直す。のらさんが帰ってきて、一緒に日記を読む。「この文章はおかしい」とか「わたしはこんな喋り方はしない」との指摘が入る。

夕食の時間。のらさんが買ってきたものがテーブルに並ぶ。ケールと枝豆とベリーと人参とひまわりの種が入ったサラダ、味付けされた潰しアボカド、焼き蒸し牛肉、キドニー豆のメキシコ味ソース、それにモッツァレラチーズ。これを電子レンジで温めた薄平パンに巻いて食べる。あまりにも見た目がおしゃれ、しかも旨すぎるので、その辺をうろついているハイカーを連れてきて自慢しようか迷ったが、やはりわたしたちだけで食べる。「いつかこれをぜんぶ山に持って行って、通りかかったハイカーに食わせてあげよう」とわたしは言う。

バスタブにぬるま湯を張って体を浸ける。その格好で英語の勉強。額から汗が流れる。

のらさんもゆっくり風呂に浸かる。「足のむくみがとまらない。とくに膝から下、足先まで」

今日一日、わたしは朝食を食べに宿の食堂に行った時以外、部屋から一歩も外に出なかった。