その50

明るくなってから起きる。クランベリー味の麦粥、栄養いっぱいのお菓子。穴を掘って出す。

歩く。水を汲む。のらさんも穴を掘って出す。

岩だらけの道を歩く。休憩する。陽射しが強いので傘をさすと、傘のなかに涼しい風が入り込んでくる。

行動食を食べる。今回の行動食は大豆とひまわりの種と粒状の塩つきビスケットとチョコレートを混ぜ合わせたもの。

強い陽射しと湿気のなかを歩く。服が汗でぐっしょりと濡れていて、体がかゆい。「町から山に戻ってから、急に夏になったなあ」「朝に蚊がいるのを見つけてがっかりした。蝉みたいのも鳴いてるし」「生き物がみんな一斉に起き出したみたいだな」

薄平パンに落花生バターを塗って食べる。

急登がはじまる。飯を食べて体を休めたばかりなのに足取りが重く、じっと耐えながら登る。道が直線なので、先にどこまでも急登が続いているのが見える。「先に苦しみがあることを知らない方が楽なのか、わかっている方が楽なのか、どちらだろうか?」

下る。トレイルの脇の草木が高く伸びていてむさ苦しい景色。小屋に着いて休んでいるとぽつり、ぽつりと降ってきてやがて土砂降りになった。飴を舐めながら雨が止むのを待つ。

止んでから歩き始めると、やがて草むらの道になり、陽射しが強く照りつけてもわっとした空気のなかを歩く。大きな鳥が大きく輪をえがきながら、ゆうゆうと上空を飛んでいる。「立派だなあ。あら地上絵にもしたくなるわ」「あれは鷹なのかな。とんびなのかな」「とんびが立派になると鷹になるんじゃないの。出世魚みたいな感じで」

川で水を汲む。顔を洗う。

樹齢300年というオークの木の前でテントを張る。わたしたちの近くを歩いていた古株さんも張る。周囲には牛の糞の臭いが立ち込めている。

ツナ入りじゃがいも、野菜入りのスパイシーなご飯を食べる。古株さんはたんぱく質がいっぱいのお菓子を落花生バターにつけて食べている。

食事をしながら、ぽつりぼつりと短い英語で会話をする。わたしたちは英語がなかなか聞き取れないので何度も聞き直すが、彼はそのたびに辛抱強く話してくれる。
ベトナム戦争から戻ってから、アルコールとドラッグ漬けになった。自分でやめることは出来なかったし、施設に入っても無駄だった。ある日心の中に声が聞こえてきて、これはもう必要じゃないと言った。わたしはウィスキーを流しに捨て、ドラッグも全部捨てた。1976年のことだ。それから毎日朝と夜、神に祈っている」彼はわたしたちの手を取って、わたしたちのために祈ってくれた。

のらさんが用を足そうとして森の中に行く途中に牛の糞を踏む。牛の糞はズボンの裾にべっちゃりとつき、靴の中にまで染み込んだ。暗くなると同時に、しとしとと雨が降り始めた。