その43

明るくなり始めた頃に起きる。麦粥と雑穀のお菓子。

白髪の頭にアメリカ国旗の手拭いを巻いた古株さんと、相棒の乾燥牛肉さんが朝食をとっている。古株さんがチーズをわけてくれる。わたしは「日本の有名なお菓子です」と言って柿の種を差し出す。

山を下ったところの小さな川で水を汲む。歯を磨く。顔を洗う。

しばらく進むとまた古株さんがいて、小さな植物を手に持っている。「これはサッサフラスといって、根っこの部分を煮出してお茶として飲むとおいしい。これは小さいから使えないけど」
わたしは干し芋を差し出す。「日本でつくられた半分乾燥させたさつまいもです。砂糖なしの自然な甘さです」

またしばらく進むと、古株さんが背丈以上の高さのある大きな木を掘り起こそうとして奮闘している。サッサフラスの木。わたしも手伝う。木のまわりの土を掘り、ナイフで根っこの部分を取れるだけ切り取る。川で洗って、ぜんぶをわたしたちにくれた。乾燥させるために、根っこをザックのそこらじゅうにくくりつける。

古株さんは60歳を超えているが体は細く引き締まっている。若い頃はハーレーでアメリカじゅうを走り周ったという。顔に深く刻まれたしわが、たくさんの風をきってきたことを想像させる。歩くペースはわたしたちよりも速い。古株さんが休憩中にわたしたちが追いつくと、その度に植物を手にとって説明してくれる。
「これはツタウルシといって触るとかぶれるから触ってはいけない」「これはワイルドチェリーといって煮出して飲むと咳止めになる」「これはスイートアナといって茎の紫のところをしゃぶると甘くておいしい」
スイートアナの茎をがじがじと噛むとほんのりと甘くてみずみずしい。「これがあれば飴玉はいらないな」とのらさんが言う(のらさんは「命の恩人」という名前の飴玉をよくしゃぶっている)。

フェンスを越えて牧草地に入る。牛や仔牛がわたしたちが通り過ぎるのをじっと見ている。このトレイルは私有地のなかを通り抜けることもある。

フェンスを抜け、森にはいり、小川にかかった木の橋を渡り、道路に出てまたフェンスを越え、牧草地を歩き…をしばらく繰り返す。

急坂を登りきったところで、倒れた木に腰掛けて、薄平パンにナッツココアの塗りものをたっぷり塗ったものを2枚ずつ食べる。

じめじめとした樹林帯を歩く。ねちょねちょとした粘土のような地面がいつまでも続く。

休憩して地図をみると、この先には急勾配の、たいへん長い登り坂があるのでふたりたも暗くなる。まだ荷物は最重量級のまま、ふたりとも肩も腰も膝も痛い。

登り始める。ゆっくりゆっくり、一歩ずつ進む。一歩足を前に出すたびにわたしの胃がぐわっと鳴る。あれほど食べているのに、もう空っぽである。トレイルを横切る水場で水を汲む。ゆっくりと登っているおかげか、それほど辛さを感じない。「せかせか登るとよけいに疲れる。腰も膝も痛くなるし。キツい時は何でもゆっくりがいい」

まだ急坂の途中でテントを張るのにちょうど良い場所が目に入る。ぱらぱらと雨が降ってくる。今日の歩きはこれまでにして、すばやくテントを張る。

ツナ入りじゃがいも、乾燥トマトと小松菜とごぼうと揚げ玉ねぎ入ったハーブ風味のご飯(ご飯は格安のものだが、具を増やせばとても美味しい)。ご飯が煮えるのを待っている間に粗塩ビスケットとチーズとサラミ。

サッサフラスの根の皮をむしり、煮出して飲む。ハーブの香りのする、やさしい味わいのお茶。

寝袋に入っても、まだ外は明るい。食べているときにはやんでいた雨がまた降り始める。