その27

夜中じゅう、雨がテントを打つ音を聞く。暗いうちに起きる。外の気温がとても低いことが分かる。気合いを入れて寝袋から出て、素早く着替え、テントを片付ける。いちご味の甘い麦粥を温め、食べ、栄養たっぷりのお菓子を食べる。その間にもどんどん体が冷えていく。

夜明けとともに歩きはじめる。いつもは朝の歩き出しはゆっくりゆっくりを心がけているが、体を温めたい気持ちが強くてゆっくり歩けない。また登りだと体がすぐに温まるのだが、こんな時に限ってずっと下り坂。

体が硬いままの状態でしばらく歩き、やっと下半身が温まりはじめて人心地つく。しかし空は灰色で太陽は出ず、風は冷たいまま。

水を汲む。たっぷりと飲む。のらさんはまだ寒くて飲めないと言う。ふたりとも顔は洗えない。

何人かのハイカーたちが立て続けに私たちを抜いていく。みんなせかせか、前につんのめるような格好で歩く。「何かに追われてるみたいだな」「次の小屋にいちばんで着くと何か貰えるんだよ」

日帰りの山歩きのおじさんおばさんの集団。こちらは花の写真を撮ったり、葉っぱを手にとって眺めたりして、とてもゆっくり。「きちんとお化粧しているひとを久しぶりに見た」とのらさん。

薄平パンにナッツココア味の塗りものを塗って食べる。塗りものはかちかちでスプーンが刺さらない。のらさんがしばらく股の間に挟んでいたらねっとりとしたいつもの感じに戻る。わたしは常に鼻水を垂らしっぱなし。「食べる時くらい拭いたら」と言われる。

歩く。穴を掘って出す。出した後は体が軽くなった気がして歩きやすい。休憩するたびに一枚また一枚と着ているものを脱ぎ、シャツ一枚になる。歩くと暑い、立ち止まると寒い。のらさんはズボンの裾を靴下のなかに入れた格好。「土方スタイルだ」と言った。

ザックの中の突起物が背中に当たっている。気にせずに歩いていると、当たっている部分だけでなく背中全体が痛くなり始めた。

水を汲む。登り坂がいっこうに終わらない。足取りがよろよろ、腹がぐうぐうと鳴りっぱなし。のらさんは腰が痛いと言う。

登り坂の途中にあったキャンプ場がある。まだ登ろうか迷う。標高が上がるとさらに寒くなりそうだし、朝から登りだと体があったまって良いからここで歩くのをやめる。

じゃがいもとミンチされた豚肉を混ぜたもの、マッシュルーム味のごはんとビスケットを食べる。コーヒーにウィスキーを垂らして飲む。

気温がどんどん下がってきて持っている衣類をほとんどぜんぶ着込む。近くにテントを張ったハイカーが「今夜はとても冷える。浄水器が凍って壊れるから寝袋に入れて一緒に寝たほうがいい」と言う。

食糧袋が破れている。昨日木が折れてどすんと落ちたからだ。この袋は夜じゅう木に吊るしてあるから防水でないと駄目だし、熊が来るから防臭でないと駄目だし、穴が開いていたら駄目。のらさんが糸で縫って、その上にダクトテープを貼りつける。

日が暮れてからまた雨が降り始めた。