その26

夜中じゅう雨が降る。明け方起きる。便所で出す。バナナとブルーベリーのマフィンを食べる。コーヒーの味がするコーヒーを飲む。また便所で出す。昨日干している間に雨でずぶ濡れになった靴下はまだ乾いていない。オイルヒーターの上に置いて乾かす。

歩き出したいのだが、旅する箱がまだ手元にある。町の中心にある郵便局まで行かなくてはならない。車で郵便局に送ってもらう。「この箱でけっこう時間を取られてる。次は箱の中身をうんと少なくして、うんと遠くに送ってしまおう。箱に残っている日本食は次ぜんぶ食べてしまおう」と話す。

宿に戻ると、もう昼飯の時間。砂糖たっぷりの、あまあまパンを食べる。コーヒーを飲む。

歩き始める。雨が降ったり止んだり。ごうごうと音を立てて流れる川沿いをゆるやかに登る。汗と雨で全身が濡れている。トレイルはそれ自体が川か滝になっていて、そのなかをびしゃびしゃと進む。昨日洗濯したばかりの靴下はもうすでにどろどろである。「田植えかよ」とのらさん。「汚れが気にならなくなるとその分だけ自由になった気がする」とわたし。

山頂近くになって草原になった。広い空は半分が青空とぽっかりとした白い雲、半分が黒くどんよりした雨雲。

良いペースで歩く。ふたりとも乗り乗りの気分。「宿を出て山に戻ったときの感じがいい。この時がいちばん爽快な気分で歩ける」

水を汲む。長い登り坂を登る。風が冷たくなってきて、鼻水がたらたらと垂れる。歩くのをやめてテントを張る。
食事のためのお湯を沸かしていると気温がどんどん下がってきて、急いで羊毛の股引や羽毛の上着を着る。

潰したじゃがいもとらーめんを食べる。らーめんはクリーミーチキンと書いてある味のもの、これに乾燥わかめをたくさん入れたらあさりスープの味わい。粗塩がついていないビスケットを食べる(これは粗塩つきを買うつもりで間違えたもの。塩分補給は大事)。
さらに栄養補助の錠剤を飲む。これは日頃足りていないカルシウムなどの栄養素を補うために昨日買ったもの。

体がどんどん冷えていくのが分かる。とうもろこしが原料のウィスキーを飲む。これは昨日、ガラス瓶ではなくてプラスチックの入れ物に入って売っているのを見つけて「これは軽いから山に持っていけるぞ」と喜んで買ったもの。ちびちびと飲むと、喉から胃にかけて、じんわりとあたたまる。

食料袋をぶら下げたロープを引っ張ると、ロープが掛かっていた木の枝がばきっと折れて食料袋がどすんと地面に落ちた。このへん一帯の木はやわい。しかしそれにしても食糧は重い。

持っているだけの衣服を着込んで、日の入りとともに寝袋に入る。